『ammonite virtual dark-room』
 
  −アンモ電子暗室計画1−
            −前編・着工編−

 文・画像処理/中山慶太  
 撮影/中山慶太+ウチダモモコ


§暗室工事申請§

 さて、暗室といえばモノクロである。
 作家の赤瀬川源平さんは、いぜん何かの本に「ライカのフォコマート(独ライツ社の引き伸ばし機)を使ってモノクロのプリントをするのが老後の愉しみ」みたいなことを書いておられた。なるほど、と思うのは白黒写真の紙焼きはいったんハマルと雑事にかまけるヒマがなくなりそうなほど奥が深いからだ。
 赤瀬川さんはそう言いつつ中古のフォコマートを入手されたようなのだが、筆者もそういうキカイを使ってモノクロ紙焼きをゆったりと愉しむ、という老後の青写真は人生の設計図にちゃんと組み込んである。その青写真もそろそろ退色してきたけど。
 まあ富士フイルムから新しいバライタ印画紙も発売されたことだし、アナログチックな銀塩趣味はこの先どこまでも続いていくだろう。そこで本格的な自家暗室の着工はもう少し先にして、まずはパソコンでモノクロ紙焼きのトレーニングをしておくことにする。
 手元にモノクロの現像設備がない場合、パソコンとスキャナーがあればカラー画像のモノクロ化は簡単(デジカメにはこの機能を内蔵した機種もある)で、初心者にはこれがいちばんの早道である。手近なカラー写真から色を取り去ると、それだけでも印象が変わって新鮮な発見があるはずだ。
 問題はそこからの画像処理でなにをどう見せるか、ということ。これにはそれこそ無限の手法があるのだけど、基本は「色に頼らずにテーマを明快に見せる」ことだろうか。この基本から大きく外れなければ、作業自体は銀塩写真の暗室テクニックとほとんど変わらない。手始めとして、画面の濃度を目的に応じてコントロールする『焼き込み』と『覆い焼き』の技法をマスターすること、それに硬軟のコントラスト調整を憶えておけばいいと思う。掲載した作例はこういう効果をかなり極端に使っているけれど、ほんとうはもう少しさり気ない味付け程度に留めておく方がいい。
 技巧を駆使しても、手近な写真がすべてモノクロ化で鑑賞に堪える作品に化けるわけではない。色の無い絵で画面をまとめるのはカラー以上にたいへんなのだ。これには旧い映画や写真集を参考に、光と影のコントラストで絵づくりをする手法を学んでおくことが大切だと思う。
 付け加えておくと、レタッチを始める前には明快な方向性を決めておくことも重要だ。モノクロに限らず、いちばん大切なのは「出来上がりのイメージを頭に描いてから作業する」ことなのだ

 

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<作例4>
小娘一号のポートレート。これはリバーサルフイルムからのスキャンデータで、この段階ではいっさい手を加えていない。リバーサルは適正露出の幅が狭いので、モノクロ化の素材としてはあまり有利とは言えず、慣れない向きはネガカラーを使った方が無難だろう。モデルの背景にある建物は東京芸大の付属施設である奏楽堂(そうがくどう)。美しい木造の西洋建築は今や貴重な存在だ。
35mm一眼レフ+20mmF2.8、絞りF5.6 1/125sec. Fujichrome Astia (RAP)

 

 


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<作例5>
スキャンデータをレタッチソフトに取り込んで色を抜き、画像をモノクロ化してレタッチのベースを作る。これだけで雰囲気はがらりと変わり、この状態でもそれほど悪くないけど、主題がいまひとつ伝わってこない。人物と背景のトーン(濃度)に差がなく平板な印象になっているためである。この点をレタッチで追い込むことにする。

 

 


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<作例6>
人物のトーンは適正なので、背景の濃度を変えて画面にコントラストを付ける。通 常の暗室作業ではマスクを作成して背景を焼き込むのだけど、デジタル暗室でも背景の濃度を変えればおなじ効果 を得られる。こういう写真で背景をアンダーにするとイメージが重くなりがちなので、人物の輪郭を覆い焼きして軽さを出してみた。

 

 


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<作例7>
デジタル暗室ならではの効果として、モノクロ階調のなかに色調の変化を付ける手法がある。ここでは背景の濃度を少し明るめに、色調を青系統に変えた。人物は通 常のモノクロ階調のままだけど、寒色の背景との対比で温度感が上がって見える。立体感も強調されて画面 に奥行きが出てきた。



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