webマガジン「マカロニアンモナイト」月刊特集
シリーズ 写す人 第一回
「創造の記憶」(前編)
株式会社タミヤ社主・田宮 俊作氏

文/写真:中山慶太
取材協力・写真提供:株式会社タミヤ
1 2 3 4 5 6 7 8 2002年1月掲載


§ 二次元を三次元に変換する魔術 §

 60年代にはじまったタミヤの取材活動は、70年代に入っても途絶えることなく続く。というよりも、言葉は悪いが「どんどんエスカレートしていった」というのが本当のところだろう。なにしろ、社長自身が取材で海外を歴訪し、年間4カ月も日本を留守にしていたというのだから尋常ではない。

「その当時の海外出張は、取材と商談を兼ねていたのです。博物館で取材して海外のディーラーと会って、終わるとまた次の取材。もうずっとそんな感じでしたね」

 たまたま帰りの飛行機が旧ソ連の航空会社で、断熱材が省略された機体の壁面にもたれて爆睡して、起きたら半身が凍えて動かなかったこともあるそうだ。

「人間はともかく、カメラは壊れることがありますから(逆の可能性の方が高そうだが)。戦車の内部などを撮っていて、ぶつけて壊したこともあります(カメラを、である)。だから故障などの場合に備えて、常時3〜4台を持って渡航しました。それに三脚と現像タンクと」

 ちょっと待ってください、戦車の取材に現像タンクって、洒落ですか?
「いえ。日本では私の撮った素材を設計者が待っているので、現地でフィルムを現像して航空便で送っていたのです」取材したその晩に現像すれば、万一失敗したときでも翌日の再撮影でカバーできるから、という。

「時間を短縮するために、フィルムを2本同時に、背中合わせに現像したり。そういう工夫もしましたが、まあひと晩で6本くらいが限度でしたね。疲れきって、あとはベッドに倒れるだけです」

「現地で現像したのはモノクロだけ。カラー撮影にはポジフィルムを使っていました。印刷原稿にしたり、会社で皆を集めてスライド上映会をやる目的もあったので」

「ただしその当時は、カラーのポジフィルムの性能が安定せず、正直なところモデル化の資料としては難しい面もありましたね。どうしても正確な発色が得られないので……まあ、もう30年も前の話ですから」

「カメラはいろいろな機種を使い分けていました。ハーフサイズから中判まで。やはりディテールを再現するには、フィルム面積の大きいブローニーが有利です。逆にカット数を稼ぐには35mmのハーフサイズで、という具合です」

 ところで、いきなりフィルムが送られてきて、日本の設計の現場は戸惑わなかったのだろうか?

「重要な部分は僕がメモを取っていますから。写真だけではどうしてもカバーできないので、実車の各部は巻尺で寸法を測ったり、イラストを描いたりして補足するんです。ただしまだFAXが一般的でない時代ですから、送ったフィルムで不明な個所があれば電話で説明しました」

 撮影された写真を拝見すると、それは書籍で見慣れた三面図などとは趣が違う。真正面、真横といったカットはむしろ少なく、ほとんどの写真が被写体を「立体として」捕らえている。屋外などの引きが取れる場所でも、斜めから撮った写真の方が実物の雰囲気を伝えやすい。寸法を補足する資料があれば、この方がモデル化=三次元化の素材として有用であるに違いない。タミヤのスケールモデルはディテール再現で有名だが、全体の雰囲気(たたずまい、と言うべきか)はそれ以上に大切にされているのだ。

 それにしても、その当時の(1ドル360円時代の)国際電話料金である。さぞかし凄い金額が請求されたのでは、と質問すると、田宮氏はしばし黙った後に「いや、そんなことは考えてもみなかった」と答えた。


 次号後編では海外ミュージアムとの交流、そしてタミヤの名を高らしめたF1マシン取材の話を伺います。お楽しみに。



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こちらは前ページとは別の屋内ミュージアムに展示されるT34戦車。この写真からも、博物館の取材がいかに困難か理解できるだろう。巨大な戦車を前に、狭い、暗い、引きが取れないの三重苦。経験のない人間は、ただ呆然とするだけではないだろうか。
(撮影:田宮俊作氏)











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英国のF1ミュージアム? 否、これはタミヤ本社のロビースペースである。タミヤは現在3台のF1マシンを所有しており、本社ミュージアムで常時無料公開している(月曜〜金曜の午前8時より午後5時まで、土・日・祝日は休館)。写真は1991年シーズンにミカ・ハッキネンが駆ったロータス101、右のエンジンは幻のいすゞV12(!)。
詳しくは次号後編で。









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