webマガジン「マカロニアンモナイト」月刊特集
シリーズ 写す人 第一回
「創造の記憶」(後編)
株式会社タミヤ社主・田宮 俊作氏

文/写真:中山慶太
取材協力・写真提供:株式会社タミヤ
1 2 3 4 5 6 7 8 2002年2月掲載


§ 最新兵器の超機密を取材する §

 世界中のホビー愛好家から厚い信頼を得、個人のコレクターや研究家にも幅広いネットワークを持つタミヤだが、その取材活動を通じて培われたコネクションといえば、やはり英米のミュージアムを忘れるわけにはいかない。特に英国のボービントン博物館は、タミヤと深いつながりを持つことで知られている。

 戦車や軍用車輌を幅広く展示するこのミュージアムに『タミヤ・ホール』が建設されたいきさつは、田宮氏の著書に詳しい。それはちょっと目頭が熱くなるような話なのだが、日本企業として異例の寄付をされたご本人には、もはやちょっと面はゆい記憶らしい。

「もう毎年のように取材で訪れていたし、気心のしれた仲になっていたのです。だから新しい軍用車輌の取材も、ボービントンでコーディネートしていただけるようになりました」

 ボービントン博物館の正式名称は『王立装甲軍団および王立戦車連隊の戦車博物館』というのだそうだ。つまり、早い話が、英国陸軍直営ミュージアムである。

「湾岸戦争の頃、チャレンジャー戦車の最新仕様を取材させていただきました。これから戦場に送ろうという直前のタイミングで見せていただいたのですが、さすがに最新の兵器で、軍事機密が満載されていたのでしょう。それまでは側によって触ることも許されていたのに、この時は近寄って写真を撮ることは許可されませんでした」

 チャレンジャーといえば、世界で初めてチョバム・アーマーという複合装甲を採用した戦車だ。ボービントン博物館との信頼関係があったといえ、その最新の実戦仕様を取材させてもらえるというのも凄い話である。ところで田宮氏が側に寄らずにどうやって取材したのかというと、なんと博物館側がクレーン車を用意してくれたのだという。

「クレーンの位置を自由に指定しながら撮影できたので、念願だった俯瞰(ふかん=真上から見下ろすこと)のカットも押さえることができて、まあ好都合だったんですけどね」
 問題は、クレーン車とともに待機していた田宮氏の目前に登場した戦車の姿だった。

「車体にはご丁寧にタミヤのステッカーが貼り付けてありました(笑)。英国流のユーモアだったのでしょうけど、こちらは湾岸仕様の取材に来ているのだから、おいおいちょっと待ってよ、って感じでした」

 イギリス人の茶目っ気と東洋から来た模型の神様の対決は、ちょっと観たかった気もする。


 先の世界大戦中、従軍カメラマンだったロバート・キャパが撮った一枚の写真が、発売直前の雑誌を回収に追い込んだのは有名な話である。『ライフ』誌の表紙に採用されたそれはB17爆撃機の機首のカットで、当時の最高機密だった爆撃照準器のシルエットが写ってしまっていた。

 いま問題の写真を観ても、逆光に浮かぶ輪郭だけで何もわからないように思うが、軍事機密とはそういうものだろう。まして模型のようにディテールを立体的に再現するとなるとなればなおさらだ。だから世界中の模型メーカーは、現代の兵器のモデル化にそうとう苦労しているらしい。写真だけでモデル化することはできるだろうが、現物取材主義のタミヤがそれで済ませるはずはない。

 今回の取材でお世話になったメディア情報課の海野さんから、面白い話を伺った。米軍の最新鋭戦闘機をモデル化する際、米軍基地を取材に訪れたタミヤの設計者が「機首のレドーム(レーダーを収める円錐形のノーズコーン)の内部を見せて欲しい」と依頼すると、米軍の担当者いわく“撮影はNG、スケッチを取ってもいけない。ただし見るだけならオッケー”

「それで取材の担当者は、レドームを開けてもらって、数分間その機構を見つめていたんです。取材を終えた彼は基地の外に出ると、急いでスケッチをした。かなり精密にモデル化されているはずですよ」

 戦車や軍用機の模型を愛するマニアは、けっして軍事オタクではない。ミリタリー系のスケールモデルが大人の趣味として愛されるのは、厳重な機密で守られたメカニズムが人間の知的好奇心をくすぐるからだ。だから模型の設計者は困難を超え、ふさがれた蓋を開いてみせる。模型の取材とはそういう好奇心を満たす作業であり、そこには写真とともに“創造の記憶”が活かされているのである。


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タミヤ本社ショールーム。
前編で紹介した『歴史館』が絶版モデルを展示するのに対し、こちらには現役の商品がディスプレイされる。ご案内いただいた海野さん曰く、「取材でここを訪れる方はたいてい“これは作った”“買ったけどまだ組み立ててない”という話で仕事にならなくなります」。筆者も同じでした。ちなみに海野さんも根っからのホビー人間で、筆者が「子供のころにハンブロールをピースコンで吹こうとした話」をすると「うわ、糸引いてたいへんだったでしょう」と返された。似たような失敗は誰にでもあるらしい。










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MMシリーズのフィギュア。
愛好家はこの人形から戦場の人間ドラマに想いを馳せ、時には装備やポーズを変えて独自の情景をつくりだす。小さいけれど、とても奥深いモデルだ。
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マカロニ・アンモナイト編集部