webマガジン「マカロニアンモナイト」月刊特集
シリーズ 写す人 第一回
「創造の記憶」(後編)
株式会社タミヤ社主・田宮 俊作氏

文/写真:中山慶太
取材協力・写真提供:株式会社タミヤ
1 2 3 4 5 6 7 8 2002年2月掲載


§ スケールモデルに終わりはない §

 現在のタミヤの前身である田宮商事に入社以来、実に40年以上にもおよぶ田宮氏の模型人生だが、スケールモデルを取り巻く環境の移り変わりについてどういう感想をお持ちだろう。

「もちろん、時代とともに進歩してきましたし、これからもそうあるでしょう。金型も進歩していますが、設計ではCAD(コンピュータ支援の設計システム)の登場が大きかった。最近の自動車などは、メーカーからCADデータを提供していただいてモデル化に利用することもあります」

 それでは写真を撮って、メジャーで測って、という取材のスタイルも変わりましたか、と訊けば「いや、CADだけに頼っては駄目ですね。フィーリングが出ない」という。

 “フィーリング”とは、今回の取材中に何度か田宮氏の口をついて出た言葉である。「イタリア人のつくるスケールモデルはけっこう荒っぽい部分もあるけど、独特のフィーリングがある」「エアーフィックス(英国の老舗模型メーカー)のフィーリングは、あれは英国人の気質ではなくて設計者の個性」というように。

 田宮氏によれば、模型は実物に忠実に、精密につくれば良いというものではない。縮尺が加われば人間の視点が変わるから、それにあわせたデフォルメが必要になる。そこに設計者のフィーリングが入る。

「写真は撮った人間の思い入れが写るでしょう。それと同じで、模型にも企画した人間、設計した人間の思い入れが表れるんですよ。厳密には実物と違う部分もありますが、模型趣味はやはり大らかでなければ」

 もちろん、CADの恩恵をフルに受ける部分もある。たとえば最近のF1マシンのボディカウル(シャシーを覆う外皮)など、空力優先でものすごく複雑になっている。ああいう部分は写真に撮ってもなかなか図面に乗らないのだが、CADのおかげでリアルな表現が可能になったのだそうだ。

「F1チームも設計にCADを使っていますから。たぶん機械どおしで、似たようなフィーリングが出るんでしょうね」


 スケールモデルが着実に進化するいっぽう、モデラー人口は縮小する方向にある。それは精密な表現を目指す模型の世界が、大人の趣味の領域に入ってしまったためだろう。タミヤはミニ四駆で子供たちの心を捉え、さらに多種多様な若年層向けの商品も企画しているが、街のホビーショップで“プラモデル”に目を輝かせた子供たちは戻ってくるだろうか。加えて昨今の日本円の強さで、輸出商品としての模型は厳しい時代を迎えている。

「弊社でもフィリピンに生産拠点を置くなど、時代に合わせたシフトをしています。もちろん、中国などの人件費が抑えられる国はこれから脅威になるでしょう」

「しかし、模型はただ安く造れるだけでは駄目なのです。ほんとうに模型を愛する人がつくらなくては、優れたフィーリングを持つスケールモデルはできないでしょう」

 模型好きの、模型好きによる、模型好きのためのスケールモデルでなければ、愛好家の心に訴えない。だから田宮氏は若い設計者にはことさら厳しい。試作のモデルが自分が納得のいく表現になっていないと、高価な金型を廃棄してでもNGを出すという。

「タミヤの名で“そこそこのもの”をつくられたら困りますから。私の目の黒いうちは、とことんやるという私の哲学を徹底しておきたい」

 おそらく現在のタミヤが世界最高峰のスケールモデルメーカーになったのは、この強烈な自負心のたまものである。その田宮氏が今もっとも力を入れているのが、“視覚だけでなく、聴覚にも訴える”模型づくりだ。

「1/16スケールのタイガー戦車に、デジタル録音したマイバッハエンジンの音を組み込んだモデルを発売しています。エンジンが掛かる音が加わった瞬間、それまでどうしても出せなかった重量感が表現できた。軽いプラスチックの模型が、重い鋳鉄の固まりとして感じられたのです」

 このシリーズにはすでに零戦が加わり、スケールモデルの新たな世界を拓くものとして愛好家の間でも注目を集めている。ひょっとして、タミヤのフェラーリが官能的なエンジン音を響かせて走る日も遠くないのではないか。模型を愛し、カメラと現像タンクをかかえて世界を駆けめぐった熱烈ホビー人間が率いるタミヤには、おそらく不可能はないのだ。

 今回の取材にあたって長時間のインタビューに快く応じていただいた田宮俊作様、また半日にわたって社内をご案内をいただいたメディア情報課の海野幸弘様に、この場を借りてお礼を述べさせていただきます。ありがとうございました。


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「最近はもう取材に出かけることはありません。若い人に任せないと」という田宮氏だが、模型作りにかける意欲は衰えを知らない。
「田宮さん、次はデジカメ片手に取材に出かけませんか?」





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「外国のポスターを背景にして撮るとリアリティが増す」という初期のジオラマ写真のアイデアは、タミヤの情報誌で紹介されたテクニックという。最後にそれ風のポートレートをつくらせていただきました。
 




§プレゼント『田宮模型の仕事』&記念ミニモデル§
※プレゼントは終了しました。

株式会社タミヤのご厚意により、『田宮模型の仕事』を著者である田宮俊作氏のサイン入りで3名の方にプレゼントします。1997年に刊行された本書は、キャリアの長い模型愛好者からミニ四駆ファンまで、若者から企業経営者まで幅広い支持を得た名著。2000年の文庫化にあたって大幅に加筆され、さらに充実した内容となっています。また5名の方には『田宮模型見学記念ミニモデル』(静岡本社を見学した方に配られるスクーターの小型スケールモデル)を差し上げます。

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