webマガジン「マカロニアンモナイト」月刊特集
シリーズ 写す人 第一回
「創造の記憶」(後編)
株式会社タミヤ社主・田宮 俊作氏

文/写真:中山慶太
取材協力・写真提供:株式会社タミヤ
1 2 3 4 5 6 7 8 2002年2月掲載


§ 基本は実物に触れること §

 田宮社長の精力的な海外取材によって、『ミリタリーミニチュア(MM)シリーズ』はタミヤのスケールモデルを代表する“顔”に成長した。スタート以来すでに30年以上の歴史を持つシリーズは、第二次大戦から現在にいたるさまざまな軍用車輌を精密に再現し、世界中の愛好家に支持されている。

「タミヤが戦車模型のシリーズをはじめたころ、海外の有力なメーカーからはこのジャンルの製品がほとんど発売されていませんでした。それが市場で有利に働いたのです」

 これに加え、初期の製品はモーターライズという特徴を持っていた。もともと箱形の戦車は、小型モーターと電池を内蔵する走行メカを内部に収め易かったのだ。工夫されたギヤ比で強力なトルクを発揮し、障害物を乗り越えて走る戦車は子供たちの心を捉える。それはやがて精密なディテール表現に代わられて姿を消すのだが、現在のタミヤのもうひとつの顔である『ミニ4駆』のルーツはこのあたりにあるようだ。

 MMシリーズの展開を大きく変えたのは、70年代の初頭に加わった兵士のフィギュアであった。単品で発売された小さな人形が、愛好家に“ジオラマ(情景モデル)”の創作という新たな楽しみを提供したのである。力強いメカが最大の魅力であったミリタリーモデルは、一転して人間臭いドラマ世界を描く素材となり、タミヤの製品には兵員輸送車など、それまでモデル化されることがほとんどなかった戦場の名脇役たちが加わるようになる。

「ジープやトラックなどの軍用車輌は、戦時中の記録映像でもお馴染みのものです。ファンからの要望も多かったのですが、著名なミュージアムでもスクラップにされてしまったりして、現物があまり残っていない。モデル化はなかなか難しかったですね」

 戦車や戦闘機のような兵器はそれ自体が客を呼べるスターであるのに対し、いっけん地味な実用車輌はひととおり研究した後、廃品に回されてしまったらしい。残された資料を駆使してモデル化することも不可能ではないのだけれど、いったん実車や実機に接してしまうと、もはや後戻りはできないのが田宮氏の性格である。

「スクラップにした車輌でも、たいていはミュージアムが写真や図面を残しています。運が良ければ製造したメーカーの設計図面が手に入ることもあります。ところが、こうしたオフィシャルな資料でもけっして完璧ではない。製図した人間の思い込みが入っていたりして、けっこういい加減な部分もあります。実物の車輌に取材していくと、それが見えてきちゃうんですね」じゃあなにを基準にすれば、というと、やはり現存する実車を探しだして取材するしかない。幸いにもというか、軍用車輌は世界中にコレクターが存在しており、彼らの協力で主要な車輌のモデル化は実現した。

「アメリカあたりには、とんでもないマニアがいるんですね。なにしろ土地が広いから、置いとく場所に困らない。私の知人でも、広い敷地のあちこちにガレージをつくって、軍用車輌を住まわせておくクレージーな人物がいますよ。訪ねていくと、III号突撃砲に乗った主人にお出迎えされます(爆笑)」いやはや。


 ところで、実際にひとつのモデルを設計する際、写真は何点くらい撮るのだろう。

「それは実車の構造や取材の条件にもよるので、ケースバイケースですが……。まあ、平均して数百カットから千カットくらいでしょうか」

 1,000カットといえば、36枚撮りフィルムで28本弱。一部のプロ用一眼レフのシャッターは十万回の耐久性を持つようだが、通常のカメラはその数分の一といわれる。この会社の備品になったカメラは大変だ。

 田宮氏によれば、“取材は要所を押さえてカット数を抑えるのがプロの仕事。経験豊富な設計者なら最低限の情報で精密な再現が可能なはず”という。

「さいきん弊社でモデル化したソードフィッシュ(英国海軍の複葉機)は、若い設計者に担当させたのですが、イギリスに実機の取材に出向かせたら1万カット撮って帰ってきた(笑)。撮りすぎですよ、いくらなんでも」

 ベテラン取材者の目はなかなか厳しいのである。


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『タミヤの戦車』を代表する車輌といえば、この“タイガー”を挙げる向きも多いのでは。写真は1/35スケールの製品で、砲身を含む全長は24cm程である。タミヤでは同じ車輌の1/16スケールもラジオコントロールでモデル化しており、そちらの全長は実に53cmにもなる。










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上の写真を拡大。砲塔の鋳肌や戦車兵の質感表現がお分かりいただけるだろうか。ちなみにこのモデルはタミヤ本社のミュージアムに展示される完成品で、社内の熟練モデラーが市販のキットをストレートに組んだもの。特別な改造はいっさい施されていない。

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