岩絵具でアブストラクトに出会いたい


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1997年2月掲載



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校の時、放課後、美術部をのぞくと、画用紙を水張りしたベニヤ板をイーゼルに立てて、鉛筆かざした片目で林檎だの花瓶だのの大きさを測りつつ日夜デッサンにいそしむ美大日本画科志願の女子がいた。油絵を描いていた連中の真っ黒な木炭ではなく、彼女が使っていたのは硬めの鉛筆だ。それでかなり薄く細いタッチで撫でるように描かれたデッサンの上から、淡い水彩で何度も色が重ねられて、林檎や花瓶が紙の中に写し取られていくのを廊下を通るたびに確認したものだ。

 日本画、っていうとアレだろ、修学旅行で行った京都や奈良の寺や城のふすまの。ヒガシヤマ・カイイ、記念切手、あーゆーのはどうやって描くの?と彼女に聞いてみたら「岩絵具ってのがあってねぇ、それを水で膠(ニカワ)を溶いたのと混ぜて描くの」と答えた。今キミが描いてるの、それ日本画?「日本画科を受験するときはこーゆーのを描かなくちゃなんなくって、日本画は受かったら描くの。」ふーん、日本画って、こんな緻密なデッサンにデリケートな色塗って、大学行かないと描けないのか、そりゃ難儀だ。というような放課後が全国各地で繰り広げられた結果、お絵かきソフトで年賀状こさえる絵描きなあなたにも私にも『日本画』というジャンルは相当敷居が高い。

 同じく高校の美術の授業で『鑑賞』なんてのがあって、そのとき、教科書に載っているいくつかの抽象画について文学カブレのヘリクツ少年が、倫社の教科書にしか出ていないような熟語十連発で『鑑賞』してくれて、昼休み後の居眠りタイムに子守歌を聴かせてくれた、なんてのも日本中津々浦々の風物詩だ。おかげで、こんなもんは子供でも描けるのになぁにがゲージュツだ、とたかをくくった作品はおろか、カッコイイじゃん、きれいじゃん、ガッツがあるじゃん、と好意的に思っていた抽象画作品でさえ高い敷居のアチラ側に持ってかれたのだった。



んな記憶も遠く彼方に消えかかっていた今日この頃、パソコンが我が家にやってきた。ハードにあらかじめバンドルされているお絵かきソフトを立ち上げて気の赴くままにマウスを転がしてみるとこれが面白い。またたく間におサイケな作品の完成だ。もしかして、前衛の才能があるのではないか?


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マカロニ・アンモナイト編集部