webマガジン「マカロニアンモナイト」月刊特集
「ひんやり熱いガラスの話」前編

取材・文/中山慶太(序説)+河野朝子(体験記) 写真/中山慶太
1 2 3 4 5 6 7 1997年6月掲載


§ガラス体験、江戸の花!§

も「てなワケで東京の下町でガラスです」

親方「てやんでえ、大の男にガラスかよ、ガラスと来たシにゃー、昔大洋にシラ松ってピッチャーがいて」

とも「なんで下町、って聞いたとたんにそういう口調になるんですか。それに平松、って誰ですか?例えが古すぎます。そういえば親方、最近、地ビールだのプレミアムビールだのって騒いでますよね」

親方「おうおう。やっぱし夏はビールに限るな。どうせ飲むならうめぇほうがいいに決まってらい」

とも「でしょ?で、親方、ビール何で飲んでます?」

親方「なんでい、やぶからぼうに。何でって、コップに決まってんじゃねーか」

とも「コップったって、アレでしょ?前に組合の旅行で行った旅館の冷蔵庫の上にあったヤツがなぜか親方の家にある、っていう、ビール会社のロゴが入ったアレ。しかも同じく旅館にあったどうでもいい湯呑みで、シングルモルトだ!なんてやってますよね」

親方「なんでぇなんでぇ!文句があるってんなら言ってみろ!」

とも「ビールだってウィスキーだって、器で味変わるの知ってます?冬場に高い醸造酒買ってきて、燗にするときゃ安物の徳利じゃダメ、って言ってたのも、三丁目の先生の手作りの徳利を女将さんが電子レンジに入れたら鬼みたいに怒ってたのも親方でしょ?それがなんでビールやウィスキーだとどうでもいいもんでへっちゃらなんです?本当は味なんかわかってないんでしょ」

親方「し、失礼なこと言うもんじゃねぇやい。そりゃなんだな、そりゃ、なんだよ」

とも「瀧波硝子の社長さんもおっしゃってましたが、やっぱりまだ日本ではガラスに対する意識が低いと言わざるをえないんでしょうね」

親方「お、おう、とも、それでおめぇ、そこでいったい何してきたんでい」

とも「借りっかな、まあ当てにすんな、ひどすぎる借金」

親方「わ!おめぇ、カネ借りに行ったのけぃ!」

とも「違います!親方、学校で炎色反応、っての習いませんでした?」

親方「学校で遠足?」

とも「聞いた私がバカでした。ものすごぉく平たく言うと、カルシウムとかカリウムとかを火の中に入れると炎の色が変わるんです。それによって物の成分がわかるという化学ですね。その色のグラデーションの覚え方ですよ、借りっかな、ってのは。地方や教員によって微妙に違うみたいですが……で、ガラスの色もそれに似たところがあって、混ぜる物によって色が変わるんです」

親方「青い絵の具を混ぜりゃー青くなるってんじゃないのか。」

とも「そうじゃないんです!瀧波硝子は東京で一番古いガラス工場なんですけれど、江戸からの工芸品、墨田区の地場産業でもあるガラスをもっといろいろな人達に知ってもらおうとタキナミグラスファクトリーって言う、ガラス工場、ガラス製品がずらっと揃ったお店、素人がいきなり行ってガラス吹きやサンドブラストを体験できる工房と、工場見学ができるスペース、それから吹きガラスの教室、博物館、ギャラリーを開いてるんですが、そこに行ってそこらへんのいろいろなお話しを伺ったり、実際にガラス吹きをやってみたりしてきたんですよ」


親方「それで、いきなりビールがどうのなんて講釈たれたのか」

とも「ええ。これが私が吹いた一輪挿しと、私のオリジナル図案のサンドブラストのお皿です。で、ですね、そのタキナミグラスファクトリーのショップの奥にどんと並べられてるのが、ファクトリーのオープンの時にわざわざイタリアから呼んだマエストロがそこの工場で作ったガラスの作品なんですが、色の迫力といい、造作といい、大胆かつ繊細で男の仕事、ってカンジがしました。そこまでとは言わなくても、そういう作品を見せられたら、自分で飲むビールやウィスキーのグラスくらい自分の手で作ってみたいな、って思うのが人情ってもんじゃないですか」

親方「ま、そりゃそうだな」

とも「そう思ったんだか、吹きガラスの教室には男の人が結構多いらしいんですよ。中には週に2回分もクラスを取ってる人までいるそうです。ちょっとやってみたらおもしろくってはまった、ってヤツでしょうね」


 
(手吹きガラス工房)
ガラス器の手吹きに挑戦。
 完成した器は持ち帰れる

親方「何が面白いんでぃ」

とも「私もちょっと吹いてみたんですけど、どろどろに溶けてるガラスが中が空洞になった金属のストローみたいなのの先にくっついてるわけですよ。敵はどろどろなワケですから、当然地面に落ちようとしますよね、それを落とさないためにストローをぐるぐるとずっと回転させてなきゃならないんです」

親方「そりゃアレだ、昔レインボーにロニー・ジェームス・デュオっていうヴォーカルがいて、マイクスタンドを、こうぐるぐると……」

とも「親方、相変わらず例えがなんだかわかりません。それを工房の若い職人さんと回しながら息を吹き入れるんですが、そっと吹いてください、と言われたから本当にそぉっと吹いていたら、もう少し強く!なんて言われたりして、加減が全然わからない。ちょっと温度が下がってくると、職人さんがまた真っ赤に燃えてる炉の中に少しふくらんだガラスの玉を突っ込み、私がちょっとふくらましてはまた火の中に、ってのを繰り返してくれるんです。職人さんが真っ黒になってる木のへらで底の部分を平らにしてくれて、一輪挿しの出来上がり!ですね。それを徐冷炉っていう、ベルトコンベアみたいのがついてるガラスを冷却するための炉に入れます」

親方「なに、わりぃもんでも憑いちまったのかい?」

とも「除霊してどうするんです!こっちから入れたガラス製品が、1時間ちょっとかけてあっちから出てくる頃にはすっかりさめてるって仕組みです。ガラスって急速に冷却すると割れるんですよ。工場を見学させてもらったんですけれど、失敗した製品が集められているところがあって、私の目の前でバリン!とはじけてびっくりしました。とにかくですね、あの熱いどろどろの玉を重力に逆らってコントロールするだけでもなかなかの技術が必要で、それが面白いんです。館内をずっと案内してくだすった中根ゆりさんは、あの溶けてるガラスは生き物なんだ、っておっしゃってました。その生き物との意思の疎通がいかにできるようになるか、ってのが楽しいって。中根さんもそのファクトリーに2、3年前に転職して来てからガラス工芸を始めたらしいんですが、今ではもうすっかり夢中だそうです。溶けてるときは真っ赤で何色だかわからないガラスが自分の手で形ある物、しかも美しい物になっていく、なんていいですよね。だいたい青いガラスをうすぅく延ばしたからって、水色にはならないんですよ、そういうの面白いでしょ?それにガラス職人、てカッコイイじゃないですか、職人ですよ、職人!」



(サンドブラスト工房)
オリジナルガラス器が手軽にできる
 サンドブラスト工房


親方「よせ、オレはその、職人、て響きにめっぼう弱ぇんだ、やってみたくなるじゃねぇか、こんちくしょうめ」

とも「そのタキナミ・グラス・ファクトリーの工房には、生徒用に、あらかじめ100色くらいの砂と色を出すためのドイツ製の化合物のセットも用意されているんです。親切だと思いませんか?」

親方「ちょっと待て、今おめぇ、砂、って言ったな」

とも「ガラスって砂を高温で溶かして作るんですよ。あ、親方、今九十九里の浜辺を空想しましたね。違います。もっとガラス向きの純度の高い砂があるんです。その砂とその他の化合物の混ぜ方にも松竹梅があるんです。松の特上からこさえたグラスはやっぱり口に当たる感触とかガラスの微妙な味とか違うんですよ。それでうまいビール煽りたいと思いませんかねぇ。こんな話聞いちゃうともう並のグラスじゃビール飲めないでしょう」

親方「おい、とも、ちょっとひとっぱしり行ってくらぁ、錦糸町だってな」

とも「神田の向こうよ!行ってらっしゃい!」


------SPICIAL THANKS------
タキナミグラスファクトリー
tel : 03-3622-3351

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