■月刊特集 §創刊1周年記念スペシャル・エディション§
『ステレオ写真のススメ(前編)』

本文・CG作成/中島一城(富士フイルム) 序説/中山慶太 1997年12月掲載



立体視のメカニズム



fig.1


●皆さんもご存じのように、立体視は左右の視差に依るところが大であります。左の図(fig.1)のように左右の目で捉えた画像は、少し大げさに表現していますが右図(fig.2)のように異なったモノとなっています。これを瞬時に脳が演算して立体認識するわけです。

●このように立体視に有効な視差ですが、普段は意識することはありません。身近な例としてコンパクトカメラで見てみましょう。この場合視差にあたるのがパララックスです。右図(fig.3)で分かるように撮影レンズとファインダーの位置が異なる為に、撮影される画像とのぞいている画像が微妙に異なるのです。そこで、フレームの隅の方に捉えた対象が切れていたり、反対に不要なモノが写ったりするわけです。



fig.2




fig.3







fig.4


●物体の位置関係の把握も空間認識には欠かせません。ここで必要になるのが距離感です。
左図(fig.4)を見てください。遠くのモノを見る場合は視線は平行に近づいて行き、反対に近くのモノを見る時は角度が付いてきます。この視線の作る角度(寄り目の度合い)から、脳が三角測量を瞬時に行っているのです。
また我々は、長年の経験と習慣から、近くのモノを見るときは無意識のうちに寄り目になり、より迅速かつ正確に焦点を合わせようとするのも事実です。







fig.5


●航空測量が発達している現在でも、正確な地図を作成するためには三角測量が行われています。原理はいたって簡単です。まず見通しの良い2つの点を決め、正確に2点間の距離を測ります。これが基線となります。次に基線の両端から次の目標を観察して、基線と目標の作る角度を計測します。基線長と二つの角度から、簡単な三角関数で目標までの距離と位置がわかる仕組みです。国土地理院発行の地図に記載されている三角点表示は、三角測量に使用されるこうした観測点です。
 もう少し身近な例では、コンパクトカメラがあります。これのアクティブ型オートフォーカスは片方のAF窓から赤外線を出して、もう一方の窓でそれを受けて、搭載しているマイクロプロセッサーで三角測量の演算をおこない測距しています(fig.5)。ライカに代表される距離計連動カメラでは、二重像を目視で合致させて、この作業を機械的に行っているわけです。どちらの場合も測距に使用する二つの窓の間隔を有効基線長と呼び、当然この間隔が広いほど精度が上がるのは、地図制作の基線長と同じです。


 測距窓、ファインダー、レリーズやダイヤルが集中しているカメラ上部をその複雑さから軍艦部と呼ぶ古い慣習がありますが、実は昔の軍艦にはカメラに搭載されている光学式距離計とおなじ仕組みの測距儀が積んでありました(fig.6)。測距精度は砲弾の命中精度に直結していますから、当然ながら有効基線長も大きなモノでした。カメラや人間の目の有効基線長は数センチですが、戦艦大和のそれは10メートルを越えていたと伝えられています。



fig.6







fig.7





fig.8


●人間は、もっと複雑な複数の要素を統合して実際には立体視を行っています。たとえば経験、無意識に行う消失点の探索、陰影、空気の遠近と言われる遠景のかすみ具合等々です。しかし、今まで説明して来た二つのメカニズムを押さえ、「立体視するぞ」という意思の力があれば、思いの外簡単に裸眼でステレオ写真を鑑賞することができます。左右の目でそれぞれ違う画像を見ることができれば良いわけです(fig.7)。しかし、近くの画像を見ようとすると人間の目は無意識に寄り目になってしまうのは、先の解説の通りです(fig.7)。

 裸眼立体視には左図(fig.8)のように2つの方法があります。一つは左右の視線が交わらない通称「平行法」で、画像の間隔が目玉の間隔以下の比較的小さな画像の時に用います。二つ目が視線が交差する「交差法」で、画像の間隔が目玉のそれ以上の大きな画像に用います。次ページの「トレーニング・ルーム」では、比較的簡単な「平行法」による裸眼立体視の練習をいたしましょう。 

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