『弦楽器工作入門(後編)』

 文/MIOX
 写真/
MIOX:ウクレレクラフトetc.
    
中山慶太:ハナムラ楽器


--クラフトの神を訪ねる(2)--
 花村氏の楽器作りに対するこだわりはもちろん材料だけではなく加工や仕上げの方法にまで及ぶ。エレクトリックギターのつまみやスイッチなどといった、通常ならプラスチックや金属で大量生産されるパーツを、ツゲやヒノキなどの木材を削り出し磨き上げて作る。塗装においては市販品に多く使われる安価で堅牢な塗膜を作るポリウレタン塗料は楽器の響きを殺すので一切使用せず、ラッカーで仕上げる。着色にもコーヒーを使って茶色に仕上げたり、ヨモギの葉を加えた染め汁で深い緑色に仕上げたりもする。美しい紫色のギターは、何とホタルブクロの花弁をバケツ一杯分絞って作った染め汁に漬け込んで着色したという。こんな草木染めもボディが一枚板だからこそ可能なのであって、接ぎあわせのある板では染め汁につけ込むと水分を吸ってわずかに膨張した木材が接合面において僅かな狂いを生じ、これが接着の強度を著しく弱め「何年かの内にはボディが真っ二つになります」という。
「僕はね、自分は職人っていうのとは違うと思ってるんです」メガネを載せた黒髪に僅かばかりの白いものがちらほら混じるだけの、ジーンズの足には古シーツを裂いて綯った紐を自分で編んで作ったという草履を履いた、そんな彼の口から「もう還暦を過ぎちゃいましてね」という言葉を聞いたときには、思わず絶句して失礼ながらまじまじとその朗らかな笑顔を見つめてしまった。大きな声で楽器を音を人生を雄弁に語り、笑い、もはや若々しいなどというのではない、老いというものが彼を縛ることができないでいるのだという印象を与えるその姿には、なるほどストイックな職匠のイメージなどは微塵も無い。

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