連載小説 
Silver Salt Nocturne
銀塩夜想曲

作=中山慶太

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砂丘 #3

 砂に足を取られながら尾根を歩く僕の目に、ちいさな黒いかたまりが映る。逆向きの矢印の果てに横たわるその物体が何であるか、僕は近づく前からわかっていた。

 砂丘の真ん中に横たわっているのは、濃い緑の羽根に覆われた大型の鳥だった。

 その孔雀がどうして砂丘に迷い込み、何を目指して歩いていったのか、僕にはどうにも説明できない。ただ、体長の倍以上もある長い尾をすり減らし、首を不自然にねじ曲げたまま、その死骸は道標のようにそこにあった。

 吹きつける風に混じった砂粒を頬にうけながら、僕はしばらくのあいだその死骸の傍らに立ちつくしていた。それから、鞄のポケットに手を入れ、撮影者のいない例の写真を取り出す。バスに乗り込む前、フィルムを購った店で聞いた話では、この写真の背景の店はもうずいぶん前にうち捨てられ、店の主人が写した廃屋も今では砂に埋まってしまっているという。

「バス停からまっすぐ海の方に歩いていけば、すぐに見つけられたのですけどね。今では屋根も見えないでしょう」写真館の留守を預かる女性は、そう言って首を横に振った。

 僕は足もとに素手で浅い穴を掘ると、孔雀の死骸をそのなかに移し、両手で砂をかけて全身を覆った。この人間流の埋葬にどれほどの意味があるかわからなかったけれど、砂丘の真ん中で海鳥についばまれて朽ちるのは、孔雀に似つかわしい果て方とは思えなかったからだ。

 灰色の風景のなかで、奇妙に盛り上がった砂の山をつくり終え、ポケットから取り出した煙草に火をつけたとき、僕はその足跡に気がついた。いちめんの風紋のなかに、わずかに判別できる一対の足跡。風が運ぶ砂でかき消されそうなそれは、僕が辿ってきた尾根筋と交差し、真っ直ぐ海に向かって続いているように見えた。

 僕は手近な足跡の横を歩いて、砂に印されたふたつの跡を比べてみた。

 足形の大きさと歩幅を比較するまでもなかった。今にも風紋に飲み込まれそうな歩みの跡は、子供の足跡に違いなかった。

(以下次号)

2000年1月掲載



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マカロニ・アンモナイト編集部