連載小説 
Silver Salt Nocturne
銀塩夜想曲

作=中山慶太

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砂丘 #4

 その足跡を追ってふたつめの尾根を越えようとしたときに風景が消えたのは、正面からの風が砂礫をぶつけてきたからだった。思わず顔の前にかざした二の腕が視界をさえぎり、風に耐えようと開いた片方の足が体重を失って急に軽くなる。つぎの瞬間、僕は砂の急斜面を転げ落ちていた。
 どさどさと砂袋を積み上げるような音がして、頭、足、それから胴体の順に動きがとまった。それから、耳のなかで砂が流れる音が聞こえて止む。どうやら、僕が歩いてきた尾根の反対側は、急な斜面になっていたらしい。
 ゆっくりと身体を起こすまでのあいだに僕が考えていたのは、このままじっとしていたら吹き寄せる砂に埋まるまでどのくらい時間がかかるだろう、ということだった。頭のなかに、あの鳥の死骸を埋めた砂の山が浮かんで消えた。
 起き上がって頭を振り、耳のなかに入りこんだ砂を出すと、まるで頭蓋骨の中身もいっしょに流れ出たように肩が軽くなった。さいわい脳みそが減ったわけでなく、それは首から下げていたカメラがどこかに消えていたからだった。僕は周囲を見渡して、その銀色の箱を探す。カメラより先に目に入ったのは、崩れかけた廃屋の壁だった。
 ずいぶん変わり果てていたけれど、それが繰り返し写真で見たあの建物であることはすぐにわかった。

「いつごろ建てられたのか、ですか? 詳しいことはわからないけど、前の戦争が終わったあとも、暫くの間ひと住んでいたそうですよ」最初に訪れた店のあるじは、自分が現像した写真を見てつぶやいた。
「でも、法律で建て替えができないというので、そのうち空き家になって。そのあとは売店になっていたんですけど、それもずいぶん前に廃業して、建物はうち捨てられた。そう聞いてます」

 僕は斜面のなかほどに放り出されたカメラを見つけ、砂まみれになりながら回収した。砂にめりこんだ銀色の箱を取りあげたとき、その脇にあの足跡がついているのに気がつく。
 子供の足跡は、廃屋のなかに向かって続いていた。

(以下次号)

2000年1月掲載



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マカロニ・アンモナイト編集部