バーチャルワインバー
「天孔雀亭(amano‐kujaku‐tei)」
   『王のワインに仕える女性の話 #2』 

 文・写真/中山慶太

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バローロ、バルバレスコというピエモンテ二大銘柄の影に隠れがちだが、イタリアワイン好きなら絶対に外せないのがバルベーラ種の葡萄から造られるワインである。特に近年は優れた造り手が増え、ネッビオーロとはまた別の味わいを持つ高級酒が次々に登場している。なかでも著名な存在がアスティ市の南西、ロケッタ・タナロ村に本拠を構える『ブライダ Braida』。創始者のジャコモ・ボローニャはすでに亡くなったが、現在は愛娘のラファエラ(父親にうりふたつ!)が跡を継ぎ、素晴らしいワインを次々に送り出している。


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『今週のワイン』
そのブライダを代表するワインといえばこれ。蝶のイラストが印象的な『アイ・スーマAi Suma』である。かの有名な『ブリッコ・デル・ウチェローネBricco dell'Uccellone』と並ぶ銘酒で、作柄によってはこちらの方を好まれる向きも多いだろう。どちらもバルベーラの極限ともいえる芳香な酒で、価格も(一部のブランド品に比べると)決して高くない。このボトルはラファエラのサイン入り。“Evviva la barbera!(バルベーラ万歳!)”の言葉に、彼女のバルベーラに対する愛情が伝わるではないか。

者に案内された白い壁の部屋はどうやら応接室だった。
 壁に飾られた旧い写真を眺めながら待つことしばし、奥の扉が開いて黒髪の女性があらわれる。彼女は僕の名を呼ぶと、
「あなたは日本からいらしたジャーナリストね。インポーターからの紹介状を受け取っています。今日はあいにく父は不在で、兄たちもひどく忙しいので私がお相手をさせていただきます」
 彼女はそういって右手を差し出し、「私はキアラ。ボスキス家の長女です」と流暢な英語で名乗った。
 その名前には確かに聞きおぼえがあった。

 僕が訪ねた醸造所『ボルゴーニョ』は、ピエモンテ州ランゲ丘陵のバローロ村を代表する造り手である。この村は同じ名前のワイン造りの中心地で、イタリア以外の国でも知られた存在だから、彼らのクラシックなラベルをご存知の方も多いだろう。彼らがラベルに戴く家名は一世代前に後継者を失い、いまはボスキスという名の一族の所有になることは知っていたけれど、キアラという名の女性はどこか別のところで知った筈だった。
 この銘醸地の造り手には同性が多く、フランスのブルゴーニュ地方のように血縁関係が入り組んで混乱させられるけれど、そうだ、たしか僕が七年越しで捜し続けている蔵元の、新しいオーナーの名ではなかったか。
 まるで乗り慣れた通勤電車の片方の窓から見る風景が、ふいに反対側のそれと一致するのにも似て、人生には壁を隔てて隣り合った記憶がとつぜんひとつの固まりになる瞬間がある。このときがそうだった。僕はまばたきをするうちにすべての事情を悟った。

「シニョーラ、あなたがキアラ・ボスキス? ということはひょっとして、『エンリコ・ピラ』という造り手のオーナーではありませんか?」不躾なこちらの言葉に、彼女はとても嬉しそうに頷くと、ええその通りです、と答えた。彼女は手にしたファイルが不釣り合いに見えるほど小柄で、あか抜けた髪型や服の着こなしはフランス女性のようで、表情はとても若々しくチャーミングに見えたけれど、髪には少し白いものが混じっていた。


        <--Back   ... To be continued.  

 

『今週のおすすめリンク』

『今週のワイン』に採り上げたブライダは素敵なWebサイトを開設しています。イタリア語オンリーだけど、観るだけでも楽しいですよ。

http://www.braida.it/



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