* 週刊フォトエッセイ *

バーチャルワインバー
「天孔雀亭(amano‐kujaku‐tei)」
   『番外編:砂漠のワインリスト #1』 

 文・写真/中山慶太 --->Back Number

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こに行ってもワインを飲みたい。
 ワイン好きの悲しい性(さが)というべきか。日本で二日と置かず飲み続けているのに、旅先でテーブルにつくと、つい注文したくなる。
 フランスやイタリアなどの『ワイン大国』なら無理もない。でも、なかには「なにもそんなところに行ってまで」という場合がある。
 それはきっと他人から見れば、北極でかき氷を食べるようなものじゃあないだろうか。
 あるいは、 砂漠の真ん中で熱いラーメンをすするように見えるかもしれない。
 そういうワイン馬鹿の話を書いてみよう。

 数年前に、チェコを旅したときのこと。オーストリア北部のオーバーエステライヒ地方から国境を越え、プラハに至るまでワインを飲まなかった。当地の特産、ピルゼンビールのあまりの旨さに心を奪われていたのだ。 おまけに肝をつぶすほど安い。晩冬という季節柄、食材の鮮度はいまひとつの感があったけれど、大衆的なレストランの素朴な味覚(まるで銀座の洋食店の大皿料理だ)なかなか魅力的であった。
 ところが、プラハ滞在も三度めの夜を数えると、もういけません。ワインが恋しい。それも濃厚な赤ワイン、できればトリュフの香りの……などと考えはじめると、口のなかにじわじわと、その手のワインの香りが湧きでてくるではないか。
 俺はパブロフの犬か。
 ふだんは旅行でワインを抜いても、こんなに飢えたことはない。どうしたわけかと訝しがりながらもホテルのフロントに出向き、プラハでいちばんのレストランを訊く。
「それなら***ですね。でも、この季節にはお客様の出費に見合う料理が出るかどうか」
 まるでリッツのコンシェルジュのように厳しい表情で宣告する受付のお姉ちゃんに、いや、料理も重要だがワインが飲みたい。トリュフの香りがする赤ワインを在庫している店を教えて欲しい、と食い下がると、珍しい動物でも観るような視線を伏せ、店の名前を紙に書いた。

 カレル橋のたもとにその店を訪ねる。路地に面した狭い入り口に掲げられた黒板には、なにやら料理の名が並んでいる。が、チェコ語なのでまったく読めない。
 居心地がいいミニマリズムの(あるいはぎりぎりに質素な)テーブルに案内され、待つことしばし。エキゾチックなスラブ美人が、ワインリストを持ってやってきた。

 

注)キリスト教徒が布教といっしょにワインを広めたおかげで、キリスト教の教会がある国ならたいがいワインにありつける。例外は極端に寒い国だろうか。寒さが厳しすぎて、強い酒でないと身体が暖まらない、というだけでなくて、そういう土地では葡萄の樹が育たないこともある。
 ヨーロッパを例に取ると、葡萄栽培の北限は北緯50度よりちょっと下。だいたいフランス北部のシャンパーニュ地方あたりにあるらしい。もちろんこれより北の土地で栽培できないわけではないのだが、労働に見合った見返りを得るのが難しくなるようだ。たとえば英国にも葡萄畑はあるけれど、出来上がったワインはほとんど市場に流通せず、英国人はたいていビールかウィスキーか、輸入ワインを飲んでいる。ワイン造りそのものが趣味に近いのだが、わざわざ面倒なことをするのは英国人の得意技なのだ。

 


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