写真
--->拡大表示
「退屈ということがない日常」
画面中央でシャミセン(発火装置)を引いて(スイッチを連続で入れて)いるのが私です。
『ガメラ2−レギオン襲来−』
(C)大映・日本テレビ・博報堂・富士通・日販/1996
より



* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

 写真・文/根岸 泉--->Back Number


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 


 


Roll 1 退屈ということがほとんどない商売

 アクション映画で人を吊り、特撮映画でミニチュア飛行機を飛ばし、パニック映画でビルを爆破するのが私の仕事である。
 時にCMで天ぷら油の中のエビフライを回転させ、冷蔵庫の中に冷気を作り、車のドアをひとりでに開ける、缶ビールをクルクル回して涼しげに雫を飛ばしたりするのはお手のものだ。

 これを「操演」と言う、でも「お仕事は何を?」と聞かれて「操演技師です」とは言わない、なぜなら誰も知らないからだ。

 世の中には「紋章上絵師」とか「原型師」など世に知られざる職業は多い、でも「操演技師」はその最右翼だろう、そもそも映画・TV・CM業界でさえ「操演」という名前を知る人は少なく、何をする部署であるか正確なところを知っている人間はさらに少ない、せいぜい「怪獣映画でゴジラの尻尾を吊っている人達」といった認識だろう、なぜそうなってしまうのかと言えば目立たぬことこそが我々の目指すものだからだ。

 アクションスターは本当にビルからジャンプした様に見えねばならないし、爆発するビルが実は安全に爆破されているのだと見えてはいけない、映画を観ている最中に「おお操演部大活躍だな!」なんてことを思わせたら失敗なのだ。

 たとえば昨年大ヒットした「WHITEOUT」。織田裕二演ずる主人公がダム内部の狭い通路を歩いて行き、外に通じるドアを開ける、外は雪景色、さっと舞い込む雪片、印象的なイントロである。この雪片が合成で後から足されたものだということに気が付く人間は誰もいない。スタジオで送風機をひねくりまわし、ニセの雪にそれらしい芝居を付けようと努力している操演部の存在に思いを馳せらせてはまずいわけだ、しかしこのくらいうまくいくと同業者にも気が付かれない。

 これは「特撮は不幸な技術だ、成功すれば誰も気が付かないし失敗すれば笑われる(スタンリー・キューブリック)」というセリフそのものだ。とはいえ不幸であるからといってつまらないわけではない。知恵を絞って人を騙し、騙した相手に喜んでいただいてギャラがもらえる商売などそうない。

 さてここに「SPECIAL EFFECTS in Motion Pictures」(注)という本がある(40年まえにアメリカの特殊効果マンが書いたもので私のバイブルである)
 私は何者であるのか、言いたいことは全てこの前書きに書いてある、少し長くなるが同じ事を言うくらいなら引用したい。

 『彼はエジソンの発明の才の上に多分に芸術的な創造力を加えた才能を備え、いろいろな職業の技術を身に付けていなければならない。

 彼の商売の道具はあらゆる職業のそれを含み、またそれに堪能でなければならない、また機械工具、木工機械、溶接機の関係にも顔がきき、それらに関する実際的な知識をもっていなければならない。

 彼は金物屋、薬屋、裁縫所、燃料倉庫、弾倉などを打って一丸とした所有者でなければならない、特殊効果係の携帯品が多いほど撮影が遅れる可能性は減るのだ、しかし彼がもっとも豊富に備えていなければならない重要な備品は、彼の発明の才と役に立ちたいという純粋な希望でなくてはならない。

 彼の仕事のただ一つの有り難い点は、退屈ということがほとんどないことだ』


※注
「SPECIAL EFFECTS in Motion Pictures」
FRANK P.CLARK 1968年 日本映画テレビ技術協会刊


       Next-->




Webmaster :
ammo@tokyo.fujifilm.co.jp
Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部