* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

 写真・文/根岸 泉--->Back Number


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Roll 4 水落とし

 「水落とし」とは操演の基本的技術の一つである。それは大きなスベリ台を想像していただけると理解が早い。幅が広く高さの高いスベリ台、そのてっぺんには水の入るタンクが据え付けられている。

 タンクの中央にはシャフトが1本通されておりそこを中心にぐるりと回転することで、中の水をスベリ台へぶちまけるという寸法である。落とされた水はスベリ台を流れ落ち、津波になり、あるいは鉄砲水となって、人を家を、ミニチュアの港を襲うということになるわけだ。

 私がこれまでに見た最大の水落としは、今を去ること10数年前、某大作のためにT撮影所のオープンセットに組まれた高さ約20メートルという化け物のようなそれであった(普通は、まあたいていスタジオ内に作られることもあって、高さ4〜5メートルというのが普通だ)。
 この水落としは京王プラザホテルのプールの半分をそっくり再現して作られたセットにつながっている。プールに人(実は失速したスーパーマン)が落ち、その余波をくらって泳いでいた人間がプールサイドに打ち上げられるというカットである。勢いはもちろん水量も必要で水タンクは1つで4トン入る特注のものが4つ並んでいる。

 このタンクの回転軸はバランスを崩して通されており、満水状態ではひとりでにひっくり返る。それを反対側にワイヤーで引っ張りソレノイドを利用したストッパーが押さえている(ソレノイドとは電磁石によって中心部のピンが前後に動く仕掛けである)。
 ここでは水の重量に耐えられるような強力なソレノイドがタンク一つにつき一個使用されていた。
 電源はAC100ボルト。コードはスベリ台の下のプールサイドまで引っ張られナイフスイッチ(工場などで使われている、取っ手のついた電極を起こして、剥きだしの電極に差し込むあれ)につながっている。

 さて操演部は本番を三日後に控えてとにかく水を落としてみることにした。スベリ台の終端にはハネ板と呼ばれる水の方向を変える板が付いており、これを調整する必要があるのだ。

 消火栓から水が供給されタンクは満水となった。操演部サードのHがスイッチを入れる、と、どうした事だろうかソレノイドが作動せず水タンクは転倒しない。
 電源を確認−入っている。
 配線を確認−間違いない。
 スイッチを抜き差しする、がダメだ。どうやらコードの容量不足のようであった、コードを長く引き回しすぎたためドロップしているのである。コードをもっと太いものと交換しなければならないと思われた。

 と、そこへT撮影所の特殊効果部でこの道何十年のベテランM氏がやってきた。氏は先ほどからの成り行きを全て見ていたのであるがついに(部外者なのだが)黙っていられなくなったようだ。
 そして、
「こういうものはな、根性が入っていないとダメなんだよ、貸してみな」
というとHからスイッチを取り上げ。
「ふむ!」
という気合いと共に力一杯スイッチを押し込んだ。

(1)しかし、やはり何事も起こらなかった
(2)驚くべき事にソレノイドが作動し、タンクからは大量の水が流れ落ちた

 結末は二つに一つ、どちらでもお好きな方をお選び下さい。





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