* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

 写真・文/根岸 泉--->Back Number



 


Roll 9 時間泥棒 <前編>

 むかし昔ラジオ体操というものがあった、というか今もあるのだろうが小学生であった私には身近なものだった、なにしろ夏休みの前日学校でスタンプカードを渡され、町会主催のラジオ体操に参加してハンコを全部埋めろと言い渡されるのだ。

 今も昔も宵っ張りの朝寝坊であった私にはこれが難題で、まずもって目覚ましなどでは起きず、親に起こされて行くこともあればそうでないこともある、といった状況だった。

 ある夏の日の朝、それがいつの夏であったのかもはや覚えていないのだが、私は誰にも起こされず一人で目を覚ました、時計を見るとラジオ体操の15分前、家族はまだ誰も起きておらず家は静まりかえっている、「やった!」と思った私はそっと着替えをすませ、いくぶんかの誇らしい気分を抱きつつ玄関を出て早朝の日射しの中に出た、と、そこで2階の雨戸が開き母親が顔を出して、
 「なに、ラジオ体操行ってきたの?」と言う。
 「違うよこれから行くところ」と答えると、
 「何言ってんの、ちょうど終わったところじゃない」と言うではないか。
 私は母親が寝ぼけているのだと思い、正確な時間を教えようと家に戻って時計を見た、確かにラジオ体操が終わる時間だった。

 「?!」
 何が起こった?
 寝ぼけた?

 いや絶対それはない! とその時は強く思った、起きてからはまだわずか、記憶はきれいにつながっていてどっかで30分近く寝ていたとはとうてい思えなかったからだ。

 後年、それはアブダクションと言って宇宙人に拉致されUFOの中で生体実験を受けて記憶を消されて戻されたのだ、と教えてくれる人があり、やっと納得できたのであるが(するな!)、今でも思い出すたびに「何が起こった?」というあの衝撃が遠い木霊のようによみがえる。

 これが時間泥棒に出あった一回目である、つぎの時間泥棒にあったのはそれから十数年ののち、私が駆けだしの操演マンとしてとあるアイドルの初出演映画に参加していた時のことであった。(続く)


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