* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

 写真・文/根岸 泉--->Back Number



 


Roll 10 時間泥棒 <後編>

 アイドル映画というのは、それがドキュメンタリー風のものであれドラマ仕立てであれ「そこそこ」なのが普通だ、なにしろ演技力に期待はもてないし、にもかかわらず一定の観客動員は必ず望めるし、といってそれ以上の人が足を運ばないことはあきらかだからだ。

 ところがその映画は気合いが入ったSFアクション物になっていた、どれほど気合いが入っていたかといえば、特撮班がまともに編成され撮影期間中フル稼働するほどだった、少人数の特撮班が短い期間お手伝い的に活動するのはままあることだがまともに(いわばフルオーケストラで)編成されるなどというのは怪獣映画の大作でもないかぎり普通ありえない事だ。

 私の親方を含め撮影、照明、美術、みな一流どころが集められ完璧な布陣で特撮は始まった <たった一カ所を除いては> 実はチーフ助監督にいい人が見つからず「特撮は始めてです」という人間がそこにおさまったのだ。

 チーフ助監督はある意味現場にはたずさわらない、だから未経験でも映像のクオリティには影響がない、しかしチーフ助監督はスケジュールを立てるのが仕事だ、そんな人間で大丈夫か? と下っ端の私でも危ぶんだのだが当然のように大丈夫ではなかった。

 どんな映画でもクランクアップ間近は修羅場モードになるのが普通だがこの作品はそれどころではなかった、クランクアップ1週間前に「これはどうみても終わらないだろう」という状況に立ち至り、しかしポストプロダクションのスケジュールをかんがみるにどうしても終わらせねばならず、結果「非常事態宣言」が発令された、簡単に言えば遅くまで撮影します、睡眠時間削ってもらいます、ということなのだが。

 というわけでその日は深夜(というか明け方近く)まで撮影は続いた、これがあと1日、2日で終わるなら翌日(もう当日だ)の開始時刻も9時とか(あるいは寝ないでそのままとか)にする所だろうがまだ先があり無理も出来まいというので昼開始となった。

 しかし昼に始めたのでは何もかも後ろ倒し(って言うのか?)になってしまうのが当然でその日の撮影は翌日の朝も過ぎ陽がかなり高くなるまで続行された。
 こうなると次が昼開始というのも無理があり、午後遅くに再集合がかけられた、午後から始めたのでは何もかも後ろ倒し(だからそんな言葉あるのか?)になってしまい・・以下略、というわけで我々の生活は次第に世間と隔絶していった。

 スタジオにこもりっきりでたまに外に出ると明るかったり暗かったり、疲労が体に染みついていてメシを喰ってもそれが何食なのかよくわからず、家に帰れば皆寝ていて、誰もいない家で目を覚ます、電車は妙に閑散としていて人混みに出会わない、自分と世間とのあいだに目に見えない壁があるような気分で、いったいあの赤い空は夕焼けなのか、朝焼けなのか、というような生活をしばらく続けたあげくズレまくった時間は1回転して元に戻りともあれ撮影は終了した。

 最終日はそこそこの時間に終了したので私は溜まったままの仕事の記録を付けることにした(フリーランスの人間はギャラの取りっぱぐれを防ぐため、詳細な仕事の記録が必要である、私はこの仕事を始めて以来何の仕事をどこで何時から何時まで行ったか全て記録している、このままいけば一生の内何時間仕事をしたかわかるだろう)

 そしてここで重要なことに気が付いてしまった(遅いか?)一週間前に始まった今回の修羅場モードは今日終わって7日間の撮影であったはずだ、7日の撮影、普通なら7回スタジオにいて6回家で寝る、ところが今回はなぜか6回撮影して5回しか家で寝ていないのだ、私の一日はどこに消えた?

 これが時間泥棒の2回目である。



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