「旅の風景・中欧紀行」
        --その5--
チェコ
プラハの夜、鉛のざわめき

はいえ、そうして彼らの気が済めば済むほど、厳格な言語習慣を苦手とす るあいまいな日本人旅行者(つまり私だ)は、息が詰まってくる。すべてがド イツ語で表現される世界に投げこまれると、停電中の水槽の金魚のような気分 になってくる。ゆえに筋金入りのドイツ語圏たるオーストリアを経て、チェコ に入国したとたん、心が安息で満たされた。
 まず道路標示から、長大な地名が消える。そして、ドイツ語では使われない “C”の文字が復活する。高速道路で走行中、瞬時に読み取れる地名はありが たい。とはいえ、言葉そのものの耳馴染みのなさはドイツ語以上だし、綴りと 発音の関係がローマ字的でない、という点ではあのフランス語をも超えるのだ けれど、まあその分エキゾチックではある。

 そのエキゾチックな道路標示にみちびかれ、車は凄絶に美しい郊外の路をた どっていく。あまりの美しさに写真を撮るのも忘れ、プラハに着いたのは夜の 帳も降りた午後九時過ぎであった。まずは新市街の北側、ヴァーツラフ広場に 面したホテルを目指す。新市街とは呼ばれても、その街並みはすこしも新しく ない。この地区が今の姿になったのは、十九世紀末のことなのだ。広場、とい っても緑地帯をはさんだ車道がえんえん伸びる大通りなのだが、その両脇には 彫りの深い世紀末の建築が建ち並び、ライトアップに妖艶な姿を競っている。

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 Text :
K.Nakayama
 Photo :
K.Nakayama


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マカロニ・アンモナイト編集部