「GUIDE AMMONITE VOL.2」
魔法使いの棲む丘
      --その1--

「プロント? こちらはエリーザ・ブルロット、丘の上の館のあるじです。おわかり? バ・ベーネ。実は、昨年そちらにご紹介した日本人のお客様が、今年もまたやって来て、あなたのワインを欲しいと言っているのですが…」
 館の女主人は、傍らに立つこちらの視線を気にする風もなく、いつもの威厳を崩さずに電話に向かっていた。彼女の低い声が石造りの高い天井に反響するこの部屋は、十八世紀の王様が遺した夏の別荘の広間である。中庭に面して開け放たれたフランス窓から、丘の南斜面に添って吹き寄せる初夏の風が心地よい。その風もこの館を吹き抜けた後は地表を離れ、かといって空の高みに上ることもなく、時に低く垂れ込める雲に吹きつけ、やがて季節の変わり目に霧を運んでくるのが定めである。そう、ここは霧によって育てられる伝説の葡萄が育つ丘、北イタリア・ランゲ丘陵の北の果てなのだ。


 ・Albergo Real Castello


 ・Burlotto Family

 「…それでは、さっそく彼にそちらに向かうように伝えます。奥様によろしく。ではごきげんよう、アッラ・プロッシマ」  女主人は電話を切るとこちらに向き直り、今の会話の内容を告げた。彼はあなたのことをよく覚えていた、ワインはお譲りしても良いし、年号もできるだけ希望に添うようにしようと言っているから、これから訪ねていらっしゃい。道順は覚えてる? バ・ベーネ。ああそれから、と彼女は悪戯っぽく笑うと、  「夕食はこちらで摂りますね?」と念を押した。

... To be continued.  

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 Text :
K.Nakayama
 Photo :
K.Nakayama


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マカロニ・アンモナイト編集部