「GUIDE AMMONITE VOL.2」
魔法使いの棲む丘
      --その2--

の前庭を抜け出し、風格のただよう門をくぐり抜けたドライバーは、しばしガスペダルを踏む右脚の力を抑え、ステアリングと忙しく格闘しなければならない。件の館は丘の南斜面に向かって広がるヴェルドゥーノ村の頂上に位置するため、村を出る路はすべて家々の軒先を縫うように走る下り坂なのだ。とはいえ、忍耐の時は長からず。やがて村落を抜けた路は丘を縦断する県道に合流し、その幅も少しばかり広がれば、快適なドライブのための条件はすべて揃うはずである。
 丘陵の尾根を往く県道の左右に広がる小麦畑は、初夏の日差しを反射するさざ波となり、路往く者の頬を金色に染める。その風景を愛でながら緩やかな尾根路を辿れば、点在する標識の地名がいやおうにも目に入る。それはこの地を巡礼する者にとって、すべて聖地にも等しい意味を持つものだ。


 ・The Village of Verduno


 ・A Village Corner

 北イタリア最大の工業都市トリノの南60キロに位置するランゲ丘陵は、世界中の食通が垂涎するふたつの特産物を持つ。ひとつは宝石のように珍重される野生の白トリュフ、タルトゥッフォ。そしてもうひとつは、この丘に育つ葡萄品種のみで醸され、“王のワイン、ワインの王”と賞される赤ワインである。どちらも他の地方で産出するものより高貴な香りを発し、量産品で代用がきかぬゆえにきわめて高価である。そして両者ともに僅かな年産量の大半が地元イタリアと周辺の国々で消費されてしまう。私がこうして巡礼の列に加わる理由は、日本でお目にかかれぬ銘醸酒を探し、その造り手を訪ねるためなのだ。すなわち酒飲みの欲望はかくも深く、ヒマ人の好奇心にかける歯止めはないのであった。ところで前途に葡萄畑はまだ見えてこない。

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 Text :
K.Nakayama
 Photo :
K.Nakayama


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マカロニ・アンモナイト編集部