●クリヤ・マコト
ミュージシャンたちの肖像
          −2
恐怖のレッドネック

        --その6--

ばらくしてピアノを弾いて欲しいと懇願すると、彼は散らかったベッドルームにぼくらを案内し、がらくたの山の一部となっている聴いたこともないメーカーのエレクト リック・ピアノを弾き始めた。そこでぼくが見たものは、彼の寂れた家とか荒れ果てた部屋とか、うつろなおぼつかない視線とか口ごもった話しぶりとかからはまるで想像もつかないような、見事な名演奏家の姿だった。彼が演奏を始めたとたんにあまりにしゃきっとし、うつろな瞳は急激に生命力の光を帯びるので、ぼくは狐につままれたような気分だった。彼は軽やかに目にも留まらぬ早さで両手を操り、左手と右手は全く別のリズミカルなフレーズを奏でて鍵盤を駆けめぐり、等間隔に木の杭を打ち込むように重いダウンビートを刻み、海老のようにしなやかにリズムを生み出しながら歌った。


・THE BALTIMORE SYNDICATE/
 featuring KURIYA MAKOTO(1991)

 クリヤマコトの初リーダ作。
 メンバーも凄いぞ。

彼のエレピは突然生命を与えられ、いまにも廃墟と化して崩れ去ろうとしている部屋の中で唯一その運命に逆らっているように見えた。その演奏はデューク・エリントンのよう でもあり、アーマッド・ジャマルのようでもあり、全くどこでも聴いたことのないスタイルのようでもあった。確かにオールド・スタイルを基礎にしているのだが、その後の彼の人生で出会った様々な経験を彼なりに吸収したオリジナリティーあふれる演奏だった。少年時代に衝撃を受けた経験というものは記憶の知らず知らずの作用によって美化されるものだが、少なくとも当時18、9だったぼくにはそのように感じられたのである。

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 Text :
Makoto Kuriya


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