●クリヤ・マコト
ミュージシャンたちの肖像
          −2
恐怖のレッドネック

        --その7--

て、事件はその直後に起こった。突然ドアが開いて目つきの悪い太った白人男が入 ってきた。それはアーチーの耳が遠いためかあるいはあまりに物事に無関心なためかわからないが、とにかくこの家で呼び鈴は何の役にもたっていないことを良く知っている人間、彼に毎日生活物資を届け、何とか無事に手足を動かし息をしているかどうか確かめに来るソシアル・ワーカーだったのだ。そして不幸なことに、それはぼくらが田舎道で何度か遭遇していたある種の社会運動家たちが、あの忌まわしい白い三角帽を外した姿でもあったのである。


・THE ALLMAN BROTHERS BAND/
 AT FILLMORE EAST(1971)

 南部音楽といえば、ロックではやはり
 この作品だろう。

 男はアーチーに二言三言話しかけて何か手渡すと、いきなりケヴィンをキッチンに連れていった。アーチーは万事に無関心な様子で、さらにポロポロと何かのフレーズをつま弾いていた。しかし男の様子にそこはかとない不安を感じていたぼくは、ケヴィンのことが気になって仕方がなかった。後で彼に聞いた話によれば、男は険しい目で彼を見据えると「今この家の中に殺したい奴が二人いる」とうなるように吐き捨てた。男はそれに続いてひどく侮蔑的なののしりの言葉をはき続けながら、手や足を突き出して彼をこずき回した。彼は男をそれ以上刺激しないように低姿勢を保ちながら、じりじりと後ずさりをする形になった。シンクに追いつめられたケヴィンは激しい恐怖と嫌悪に襲われ、いざというときのために後手に触れたナイフをしっかりと握りしめた。この時不安 に駆られたぼくがキッチンの入り口に姿を現した。そして幸いなことに男はこの不意の出現によって気を取り直し、ぶつぶつと悪態を付きながらも完全に出ていったのである 。アーチーの哀れな家から、そしてぼくとケヴィンの一瞬ひどく頼りないものに思われた人生から。ぼくらは実際その時男が銃なり刃物なり、とにかく武器を持っていなかったことに感謝する他ないだろう。もちろんこの部屋の主であり、人種差別など思いもよらないミュージシャンであるアーチーは事の成り行きに全く気づいておらず、彼に別れを告げたぼくとケヴィンはその後再び彼の姿を見ることはなかった。

<--Back  ... To be continued.

---------------------------
 Text :
Makoto Kuriya


Webmaster :
ammo@tokyo.fujifilm.co.jp
Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部