クリヤ・マコト ミュージシャンたちの肖像-3
炎のサックス奏者ネイサン
-その4-

 文・写真/クリヤ・マコト

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年後、何とかマフラーを直して、ぼくはその車をピッツバーグの友人に売った。ここからは彼に聞いた話なのだが、彼がピッツに帰る途中いきなりその車がパンクした。どういう巡り合わせか、パンクした場所がまたしてもラフ・クリークだった。彼はそれを牽引してやっとのことで帰宅した。翌朝タイヤを修理に出そうとして、彼は一度車のドアを開いた。そしてそのドアを閉じた瞬間、全ての窓ガラスが粉々に割れたのである。まあこれもおそらくラフ・クラークとは何も関係なくて、その車がよほどイカレテいたのだろうから、やはりこの事件も「X-FILE」からは外しておこう。
 話を元に戻そう。ピッツバーグではマルチからA-DATにデータをコンバートし、ものの数時間でモーガンタウンへ戻った。それから3日間はキムのスタジオに籠もることになった。キムは昔なじみのエンジニアで、町に一件しかない楽器屋の町に一人しかいない認定証をもった修理技師で、しかもおそらく町に一人しかいないレコーディング・エンジニアではないかと思う。金に困っていた学生時代には、楽器に限らずビデオやら炊飯器やらやら、何でもかんでも彼に修理してもらったものだ。とにかく彼は何でも直せるのだ。なにしろアメリカ人なのに炊飯器が直せるなんて、よく考えて見ればたいしたものだという気がする。

 


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・エンジニアのキム・マンデイ氏

 

 ぼくがアメリカのレーベルから発売したデビュー作は、彼のスタジオで録音したものだった。ゴキゲンな音楽のためなら何でもトライしてくれる素晴らしい男だ。アメリカの田舎に行くとよくいるある種のヒッピーのような男で、家もスタジオも全て手作り。ブレイクの時にはジャパニーズ・グリーン・ティーをご馳走してくれた。とにかく彼とぼくとの共同作業でトラック・ダウンはつつがなく終了した。最終日にぼくは彼が作業場を持っている楽器屋に行って、ラックケースとコンプレッサーと、トランスレーターという実にユニークな機材を買った。これはオーディオ・データのタイミングとダイナミクスをそのままMIDI変換し、別の音色に差し替えることができるというものだ。
 さて、4日目の午後ブルームース・カフェという店で、やっと親友のケヴィン・フライソンに会った。このカフェは今様ヒッピーのたまり場のような場所で、トイレの落書きに「マンソンを解放せよ!」などと書かれていてドキっとさせられるが、こういった連中は人種差別を持っていないのがいい。今様のヒッピーというのは、ジャミロクワイの"JK"のような風貌を思い浮かべてくれれば間違いない。コーヒーがおいしいのでケヴィンのお気に入りの場所らしい。
 さて、彼は相変わらず刑務所で働いており、若い受刑者に音楽を教えている。もともと大きい男だったが、ますますでかくなった以外は全く変わっていない。最近バンド仲間とデモ・テープを作ったという話を電話では聞いていたのだが、久々に会って互いに包容しあうと、ぼくら二人を結びつけているものが何だったのかという理由が大きく迫ってくる。ぼくらは顔を合わせていなかった期間も互いに、常に音楽への情熱をふつふつと発酵、熟成させて来たのであり、遠く離れていても同じ空気を吸っていたかのように通じ合っていたのだ。だからまるで昨日も会っていたなじみの友人のように、スムーズに会話がはずむ。なにしろ前回はスーパーで買い物しながら会ったくらいで、アメリカのどこの郊外にでもある巨大なスーパー・マーケットで、3時間も雑貨や食料を物色しながらつもる話を交わしたことを覚えてい。

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