クリヤ・マコト ミュージシャンたちの肖像-3
炎のサックス奏者ネイサン
-その8-

 文・写真/クリヤ・マコト

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のフェスティバルは毎年ジャズの巨匠にトリビュートされ、ある時はトリビュート・トゥー・チャーリー・パーカー、ある時はトリビュート・トゥー・デューク・エリントンという具合だが、1987年ついに『トリビュート・トゥー・ネイサン・デイヴィス』になった。スタッフは地元の文化に貢献してきたことに対するリスペクトのつもりだったのだが、ネイサンは「オレはまだ死んでねーぞ」とぼやいていた。この年はトリビュートされた本人だっただけに、彼にとって死ぬほど忙しい一週間になった。ということはぼくにとっても同様だった。どうやらネイサンは、ぼくを自分のバンドのキーボーディストとして確保しておくためだけに、講師の仕事を与えてくれたらしいのだ。

 


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・ネイサンの犬
 広いので室内で放し飼い

 

 さて、この時ぼくたちがどれくらい忙しかったかというと、一日に3ステージ別々の開場をハシゴし、その合間に翌日のリハーサルをするという有様だった。ところがである。この年は記録的な熱波だった。摂氏で40度は越えていただろう。へとへとになって帰宅し、夜になっても暑くて眠れず、テレビをつけて天気予報を見ると、合衆国全域が熱病に侵されたように真っ赤に染まり、大きな文字で"HEAT IS ON"と書かれていた。その翌日は野外ステージだった。炎天下の野外など想像するだけで倒れそうだが仕方ない。ここまでくると暑いを通り越して、頭が痛い、熱っぽい、腹が痛いと次第に症状が悪化してくる。まさに熱射病の一歩手前である。
 つらいのはそれだけではなかった。サウンドチェックでシンセをいじっていたら、液晶ディスプレイが焼けて真っ黒な暗転状態になっている。こうなったら表示はあてにできない。スイッチで出音を便りに演奏する以外ない。もっとつらかったのはトランペット奏者だった。熱波に焼かれ、手に持っているだけで熱々のトランペットに口をあてると、まるで出来立ての小龍包を口に放り込んだような熱さ。数コーラスのソロなどほとんど拷問状態である。しかし、我らが敬愛すべきネイサン・デイヴィス名物教授は強かった。彼は死者がでてもおかしくないようなこの熱さの中、真っ黒い皮のジャンプスーツで登場したのである。そして滝のような汗を流しながら、最後まで豪快に吹き続けたのだ。彼が前の方の子供に話しかけ、「君のためにラウンド・ミッドナイトを演ろう」と言ったときには、メンバー全員目の前が真っ暗になった。燦然と輝く熱波の太陽の下で、よりによってラウンド・ミッドナイトとは。

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