マダム・キヨコの近代処世術 第3回
「戦士の休日、労働者の祝日」  -3-

 文・写真/印南紀世子メニヤン 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 

 


--->拡大表示

 

産階級や富裕市民層の人々にとって、よどんだ熱気で噎せ返る都会を離れて夏中を田舎で過すことは、すでに定着した習慣となっていた。彼らの多くは地方に別荘を構えていたし、農家の離れを借り受けたり、瀟洒な装飾を施したホテルに滞在するのも難しいことではなかった。十九世紀のうちから南仏の海岸地帯コ−ト・ダジュ−ルは、ヨ−ロッパはおろかアメリカから来る金離れのよい避暑客たちにとっても馴染み深い観光地となっていたし、パリに近い海辺の町ド−ヴィルでは、夏場の優雅な社交風景が毎年のように繰り広げられていたのだ。
 でもこの夏は特別だった。それまで法制化された有給休暇を持たなかった労働者たちは、休みを取ろうとすればその分の減収を覚悟しなければならなかった。休みを頼んで受け入れられる保証もなかった。就業時間の規定もなかったから、どれだけ働けばよいのかは親方や工場主次第だった。産業革命で機械化と産業の都市集中化とが進んで以来、労働者の就業条件はある意味では昔よりよほど悪くなっていたから、彼らはこのときまで、自由に都会を離れて田園での休日を謳歌できる日を待ちこがれていたのだ。


<--Back   ... To be continued.  

 


Webmaster :
ammo@tokyo.fujifilm.co.jp
Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部