新・東京恋愛事情
「boyの写真-2」  -2-

 文/中山慶太 写真提供・取材協力/boy

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同住宅の真ん中にそびえていたお風呂屋さんの煙突。窓ガラスが割れ、坂道の途中にうち捨てられた廃車。公園の前にあった食堂の、ガラスの引き戸に映った少女と友人たちの姿。
「あの塀の内側の街なみ、こんな風だったかなあ。僕も写真を撮っておけば良かった」
 少女はこの言葉を聞きのがさず、アルバムをぱたんと閉じると、僕の眼をじっと見つめてこう言った。
「写真って、昨日のことを忘れないために撮るの?」
「いや、昨日のことを忘れないためじゃなくて、今日を残しておきたいから撮るんだよ」
 僕はそう答えたけれど、それは少女の疑問に対する答えになっていないような気がした。
 ひとの記憶はあいまいだ。放っておくと都合にあわせて美化したり、たいせつな部分を勝手に引き出しの奥にしまい込んだりする。
 だから僕らは鋭利なシャッター幕で時間を切り取るのだ、抗えぬ時の流れをフィルムでせき止めるのだ、思い出をあいまいな記憶で風化させないために。
 でも、とあらためて自問する。写真を撮る動機って、本当にそんなもんなんだろうか。
「ふうん、そうなんだ」
 少女はアルバムの表紙を、きゃしゃな指先でなぞりながらつぶやいた。
「大人はそうやって安心して、大切なことをみんな忘れちゃうんだね」


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