灰色の空のロックンロール
  (イングランド名所巡り)

 -8.音楽に運ばれた景色が匂う-

文/河野朝子  写真/中山慶太


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ころで、『どんよりイギリス』に最も似合うとおぼしき人物の一人にデヴィッド・シルヴィアンがいる。イギリス人全員がこんなヤツだったらイヤだな、と妙な空想をしてしまうくらい、お友達にはなりたくないタイプだが、彼の醸す音は私の脳の底に触れて記憶を揺さぶる。

 そんな正統派『どんより系』のデヴィッドを、90年代に入ってから、半径1メートル以内の至近で見たことがあるが、新生児を慣れた手つきで抱き、フランス人のカミさんを連れてヘラヘラしているその様は、写真を撮ってタイムスリップし、70年代末の私に見せてやりたいくらいのものだった。もしかするといい人なのか?それもイヤだ。とにかく人間、歳をとって見届けるべき事象はいろいろある。

 音楽には空気を振動させる音としての情報以外の何かが含まれていると思う。ただ音をひたすら聞いていただけなのに、実際には見たこともない風景や感じたことのない空気を私は知っているのだ。どうやら音楽から得たようなのだが、デヴィッドの楽曲にも、そんな音以外の情報量が多い(ような気がする)。

 だからイギリスにはその心象風景を確認しに行ったようなもので、すすけた石の建物が圧迫感を持って道に迫り、その間に湿度のある空気が沈殿している冬は、本当にそこにあった。今度は、木々がひっそり愛を交わす暖かさの裏側に脆さを背負った夏を確かめに、また行ってみたいと思うのだ。

 




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