バーチャルワインバー
「天孔雀亭(amano‐kujaku‐tei)」
  --『真冬に白ワイン(5)』--

 文・写真/中山慶太

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ダイニングへの道は、果てしなく遠い(ことも
ある)。


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『今週のワイン』
先週に引き続き、ヴィオニエ種のワイン。
ただし、念の為に記せばこちらは辛口。
『シャトー・グリエCh.Grillet』はフランス
でも珍しい単独アペラシオン(法で規定された
原産地呼称をひとつの造り手が独占すること。
他にはロマネ=コンティ、クレ・ドゥ・セラン
などがある)を持つ銘酒だ。面積3ヘクタール
のちいさな畑はおなじ葡萄で醸すコンドリュー
の畑に囲まれ、独特のスパイシーで強烈なブケ
もよく似ている。昔から飛び抜けて高価な酒
だったが、最近は宝石のようなコンドリューも
増えて印象は薄くなった。

萄を遅詰みして糖分を高めるという手法は、北ヨーロッパ(もちろん葡萄栽培が可能な地域の北部、という意味ですが)で旧くから行われていました。これは日照が少なく、葡萄が完熟しない地域特有の知恵とも言えます。おもしろいことに南ヨーロッパでは、遅詰みの習慣そのものがほとんどありません。日照に恵まれた南の葡萄は、そのままでも充分な糖分を持っていますし、収穫期を遅らせれば葡萄が腐敗してしまうからです。南の地方では、甘口ワインはリキュールを添加した食後酒として造ることが多い。近道があるなら遠回りしない、というラテン気質もあるでしょうし、温暖な地域ではとろりとした甘口が好まれないからかもしれません。
 葡萄の糖分を凝縮してつくる甘口白ワインは、職人がたっぷりと手間をかけた贅沢なものです。それはシャンパンと同様、フランスやロシアの王族、そして貴族たちの寵愛を受けてきました。果てしなく続く晩餐のテーブルには贅を尽くした皿が十数種類も載り、それぞれに別々のワインが用意されます。そんななか、グラス1杯の甘口白ワインは大柄な赤ワインを向こうにまばゆい輝きを放ったのです。彼らがそれを黄金の酒、“酒神バッカスの恵み”ネクタールになぞらえたのも無理はありません。
 もちろん、現代のシンプルなテーブルに甘口ワインが載る機会は少ないでしょう。なにしろ宮廷の晩餐では、時にソーテルヌを生ガキに合わせたし、白と赤を交互に供することすら珍しくなかったのですから。
 ただ、私たちが常識として受け入れる料理とワインの相性が、実はたんなる先入観で築かれていることも確かです。さる有名なソムリエは、鹿肉とドイツ産リースリングRieslingの相性を格別なものと推したことがありました。血の気の多いジビエに甘口の白とは意外でしょうが、先の『生ガキとソーテルヌ』同様、この組み合わせもお試しの価値ありと申しておきましょう。
 さて、新年にお屠蘇がわりで楽しむワインも、そろそろお開きにしたいと思います。え? 甘口の白ワインはまだあるだろう、とおっしゃるのですか。はい、もちろんネタは用意してありますが……そろそろ辛口に変えませんか? いや、実は甘酒の飲み過ぎで、胃がもたれているものですから。

 次回から新シリーズ『法皇の畑の赤ワイン』がスタートします。

注)よく知られた話だけど、18世紀半ばまでの欧州では晩餐はすべての料理をいちどにテーブルに載せる英国式が主流だった。これが調理を食事に並行してすすめ、温かい皿を供するロシア宮廷式に変わったのだ。それ以前はワインも客の好き勝手に給仕されたのだから、晩餐はさぞかし混乱の極みであったことだろう。ところで上記の『生ガキとソーテルヌ』、もし試す場合には若目のオフヴィンテージもの(91年や92年が入手しやすい)を合わせると良いと思う。


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