バーチャルワインバー
「天孔雀亭(amano‐kujaku‐tei)」
  --『法皇の畑の赤ワイン(20)』--

 文・写真/中山慶太

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パープの丘より、アヴィニョンの方角を望む。
手前の広葉樹はアーモンドの樹。


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『今週のワイン』
パープ編の掉尾を飾るのは、シャトー・モン・
ルドン。その生産量と品質の安定感ゆえ、
フランスの高級レストランでもよく見かける
銘柄である。日本でも比較的容易に入手でき、
よほどの古酒でなければ(古酒は滅多に入荷
しないが)価格も納得のいくものである。
左の1995年はリリースされたばかり。
右の1985年は色がレンガ色に変わりつつある。
ところで本稿にご登場いただいたオーナーの
ジャン・アベイユ氏だが、大の親日家として
知られる。彼は日本のサドヤ醸造所(国産
ワインの草分け的存在)の現当主とフランスの
醸造学校で席を並べた仲という。同社はモン・
ルドンの日本における代理店をつとめるなど、
両者の親交は今も続いている。

や、またしても話に夢中になって、時計を見るのを忘れていました。お帰りの足は大丈夫でしょうか。それでは、今夜最後の一杯をお注ぎしましょう。アベイユ氏のワイン『シャトー・モン・ルドン』、これは1980年のボトルです。え? 2月号で読者にプレゼントしたはずでは、とおっしゃるのですか? いや、実はドメーヌを訪問した際に、何本か購入したので……それならプレゼントの本数を増やせ、と。いやはや、ごもっとも。
 さて、1980年は南部ローヌの醸造家にとって、必ずしも良い年ではありませんでした。にもかかわらず、アベイユ氏はこの年号を他の秀逸なヴィンテージ(80年代では81年、85年、88年、89年)と並べて推薦しています。その理由をうかがってみましょう。
「この年は、当初から我々の期待を裏切らなかった。凝縮感のあるブケは、森の下生えやフルーツのアロマを含んでいる。……フルボディのワイン、実に愛すべきボトル」
 通常、造り手が“愛すべき”と表現する場合、その裏には苦労ゆえの愛着があるとみていいでしょう。困難な年に良い仕事をした時こそ、創造の喜びはいや増すということです。これはどの地方の醸造家と話しても同じ意見でした。ですから、このボトルには造り手の労苦と愛着がたっぷりと詰まっているのです。
 さあ、お飲みになった印象はいかがですか。愛好家の多くは、シャトーヌフ・デュ・パープといえば重々しく、しばしば刺激的な香りを持つワイン、という印象をお持ちと思います。しかし充分な熟成を経たパープは、そうした先入観をくつがえす雄大なパフォーマンスを発揮します。それはローヌの河原の小石のように、永い時の流れで角を落とされ、滑らかなテクスチュアをまとったワインです。
 こちらのボトルにしても、葡萄の収穫から20年を経た今もなおフレッシュな果実味を失っていません。今年発売されるワインにおなじ熟成期間を求めたら、栓を抜けるのは2017年頃の話です。そこまで待つ忍耐をお持ちでしょうか。……いや、飲み手の私たちがすこしばかり気が短くなっただけかもしれません。法皇が葡萄を植えた時代には、ものごと万事がもっとゆっくりと流れていたはずなのですから。そう、アヴィニョンの城壁から見わたすローヌの流れのように。

注)ワインの飲み頃については、さまざまな書籍で蘊蓄が傾けられている。なかには「この収穫年のこの銘柄は西暦何年から何年の間に抜栓せよ」と具体的な数字を挙げるものまである。ワイン趣味もこうなると少々オカルトの様相を呈してくるが、読者にはいたく好評という。日本でも昨今のブームのおかげでワインをめぐる情報は巷にあふれ、同時にマニュアル化も急速に進行しているように思う。雑誌の進言にしたがってワインを選べば失敗も少なく、誰もがたやすく近道を発見できる(かもしれぬ)が、それを趣味と呼ぶかはまた別のことである。点数や星の数を参考にワインを選ぶより、「ラベルが可愛いから」と衝動買いする方がよほど健全と思うのだが。さて、5か月にわたるパープのお話もこれでいちおう終了。連載中はまだうら若いワインを次々に抜栓してしまった。なかには充分とっつきやすいものもあったけれど、やはり「ローヌは寝て待て」に尽きると思う。読者諸兄、パープやジゴンダスの早飲みにご注意!


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