バーチャルワインバー
「天孔雀亭(amano‐kujaku‐tei)」
  --『ここで、ちょっと休憩(店主独白)』--

 文・写真/中山慶太

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『今週のワイン(1)』
休業前の大掃除で、セラーの奥からとっておき
に珍しいワインを発掘した。
1本目はブルゴーニュの銘醸白ワインとして
名高いムルソーMeursault。造り手は名 門ルロワ
社のオーナー、ラルー・ビーズ=ルロワ夫人の
個人所有になるドメーヌ・ドーヴネイDomaine
d'Auvenayで、コート・ドールに散在する小さな
畑の収穫 から、毎年ごく少量のワインを醸造
する。ヴィンテージ1994の村名ムルソーは
総生産量が僅か137本というきわめつけの稀少
ワイン。通常ブルゴーニュで使われ る樽
(ピエスPiece)は228リットル入りが多いのだ
が、総量でその半分にも満たないということは、
特別な樽を使っているのだろうか? 一昨年の
リリース直後に2本入手したうちの1本を最近
試したところ、比較的早期に熟すヴィンテージ
にもかかわらず、未だ大器の片鱗を感じさせる
のみであった。香りが開くのには時間がかかる
はずだが、世界中に現存するのは果たして何本
か?。


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今週のワイン(2)』
2本目は北イタリアはヴェネト州の州都、ヴェ
ローナ北西の丘陵で産出する『レチョート・
デッラ・ヴァルポリチェッラRecioto della
Valpolicella』。収穫した葡萄を風にあてて
陰干しし、糖度を極限まで高めて醸造する
ヴェローナ特産のレチョートワインで、甘口と
辛口の二通りが造られる。『アマローネ
Amarone』 の名で知られる辛口は日本にも
愛好家が多いが、こちらの甘口はなぜか
ほとんど輸入されない。この1983年産は
詩人ダンテの末裔が経営するセレーゴ・アリギ
エーリ家Serego Alighieriを訪れた際に求めたもの
で、一般市場には出荷されないリセルヴァ・
ディ・ファミリア(ファミリー・リザーヴ)で
ある。ラベルに記載がないが、アルコール度は
17〜18%にも達する。アマローネそのものの
ほろ苦い香りと、カシスリキュールのように
厚みのある味わい。ご想像の通り食中酒には
向かないものの、グラス1杯で満ちたりた食後が
約束されよう。

載をはじめて1年弱。おかげさまでお馴染みの読者から質問や感想をいただく機会も多くなった。もとより公平中立な評論などをものする大望もなく、店主の気まぐれで開けた店だから、これは望外の喜びというべきである。
 開店当初の思惑としては、好きな酒を肴に楽をしようという欲目もあったのだが、すぐに楽などできないことがわかった。ワイン造りに関してひととおり理解していたつもりであったのに、実は知識が甚だ不完全なことが判明したからだ。筆を進めるほどに疑問が湧きだし、しまいにはグラスの縁をこえて溢れる始末。雑誌、書籍そして生産者自身が開設するサイトなどにあたれば済みそうなものだが、安易な引き写しなどは目と舌の肥えた読者に即座に看破されよう。そこでテーマを自分が訪れたなかでも日本のジャーナリズムがあまり採り上げない地域に絞り(例外は『真冬に白ワイン』の項)、できるだけ現地で得た資料と生産者自身の言葉を引用し、残りは個人的な思い入れに浸って書くことにした。もちろん書籍にはあたっているが、こちらは主に洋書を参考にしている。
 個別のワインについて、味や香りの評価がもの足らないというご意見もいただいた。さいきんはこの分野の原稿依頼もままあるといえ、もとより純粋な趣味として積み重ねてきたジャンルである。1日1本のペースでは、いちどに何種類も並べての比較試飲を重ねるプロに敵うはずもない。ただしテイスティングコメントを抑えたのには別の意図がある。多くの愛好家と話すにつけ、ワインの嗜好に普遍的な基準はあり得ず、文字による表現にも限界があることを痛感しているからだ。したがって本稿で紹介したワイン(今週のワイン)は必ずしも万人向けというわけではないが、造り手のプライドと良心が伝わるものに限ったつもりである。
 近年、ワインジャーナリズムはワイン単体の評価を重視する傾向がますます強まり、米国の評論家の採点は市場にいっそう大きな影響を与えるようになった。なかには店頭にこの採点を掲示している酒販店もあるほどで、親切心と老婆心(または売り手の怠慢もしくは職務放棄)の彼岸はいっそう曖昧になりつつある。そういう風潮を肌で感じつつ、あえて味覚の評価に重きを置かなかったのは、ワインの成り立ちは造り手の人柄や思想、そしてなにより産地の文化と不可分であると信じるからだ。品質や味わいが同等なら造り手も原産地も問わない、どこのワインでも旨ければそれで良しとする考え方もあるが、工業生産の実用品ならいざ知らず、筆者にとってはそれはもはや趣味の対象ではあり得ない。
 掲載したワインはすべて筆者が個人的に購入したものである。基本的に日本でも入手できるものを選んだが、なかには現地の蔵元を訪れた際に購ったものもある。収穫年から二十年以上を経た古酒などはほとんどがこのケースだ。ある読者から「地方では入手が難しい」とのご指摘を受けたが、百貨店のセール(リストを入手すれば電話やFAXでオーダーできるケースが多い)などをまめにチェック すれば大概の品は入手可能と思う。筆者にしても東京の主要な酒販店をすべてチェックしているわけでなく、二、三の馴染みの店を月に数回訪れるだけである。
 さて、ここでお知らせ。『天孔雀亭』は店主の充電と仕入れのため、しばらく休業させていただきます。秋にはふたたび皆さんにお目にかかれると思いますので、再開後はまたご贔屓のほどよろしくお願い申し上げます。


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