連載小説 
Silver Salt Nocturne
銀塩夜想曲

作=中山慶太

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孔雀 #4

 とんとん、と遠慮がちな物音に背中をつっつかれて我にかえれば陽の光はすでに消え、辺りは薄く暮れはじめていた。音のありかを探すと、入口の扉をたたくちいさな人影が目に入る。
 ガラスの扉を手前に引くと、ふたつのおおきな瞳がこちらを見つめていた。
「お店、今日はもうおしまいですか」
 それは歳のころ十二、三の少女で、赤いワンピースを着て、胸までとどく髪を後ろで結んでいた。この時間にひとつの荷物も持たずにいるところをみると、学校の帰りというわけでもないらしい。
「いや、まだやってるはずだけど」僕はカウンターの向こうにちらりと目をやって、返す言葉を探す。
「お店のひとは今、ちょっと手が離せないみたいなんだ。もうじき終わると思うから、ここで待つかい」
 僕は一歩下がって脇をあける。少女はそこではじめて笑みを浮かべ、慣れた足取りで店内を横切りって、隅に置かれた椅子にちょこんと腰をおろした。
 相手が子供でも、薄暗い店のなかに見知らぬ同士ふたりきりでは落ち着かない。照明のスイッチを見つけようと歩きまわる僕をよそに、少女は店の外を見つめている。
「ずいぶんいろんなカメラがあるのね」
 ちいさな指先をたどれば、ガラスの陳列棚にさまざまな形の金属の箱が、丸い筒を突き出してならんでいる。
「どれも旧いカメラばかりだよ。ここのご主人、ちょっと変わってるんだ」僕は気づまりな空気が薄まったことにほっとして、自分の趣味を棚に上げながらうなずき返す。
「それと、あなたの後ろにかかってる鳥の写真、すごく可愛い」
 妙に大人びた二人称の使い方もなぜか気にならず、僕はしだいに少女との会話に惹きこまれていた。どうすればああいう写真が撮れるの。あとで店の主人に訊いてごらん。
「写真が好きなんだね」という問いに、彼女ははにかんだ様子で、まだ自分では撮らないけど、両親や友達に撮ってもらうと答えた。
「今日は写真を取りにきたの。私の写真、夕方にはできるはずなんだけど」

(以下次号)

1999年10月掲載



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マカロニ・アンモナイト編集部