連載小説 
Silver Salt Nocturne
銀塩夜想曲

作=中山慶太

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孔雀 #5

 辺りはいっそう暗く、ときおり外を往く車の灯りがガラス越しに差し込むと、たくさんの写真機を背にした少女がシルエットに変わる。髪の輪郭がまばゆく輝き、桜色の頬は沈む。そうして陽画と陰画が何度か入れ替わったとき、少女はふいに口をひらいた。
「鳥がしっぽをひろげるのは、なぜだか知ってる?」
「尾をひろげる鳥……クジャクのことかな」
「うん。あれはね、ひとが見つめるからなんだって」
「それ、誰に訊いたんだい」まさか鳥におそわったわけじゃないだろう。そう言い返そうとして、僕は言葉を飲みこんだ。

「どうしたんですか、暗いなかで」
 奥から顔をだした店主はそう訝しげに問うと、カウンターの裏のスイッチを押した。店のなかにふたたび明かりがもどる。
「そのスイッチのありかがわからなかったんです」
 主人はうなずき、時間がかかって申し訳ない、退屈しただろうと言った。僕は、お客さんと話をして時間をつぶしていたと答えた。
「待ち切れなくて帰りましたよ。ちいさな女の子で、今日の夕方に出来る写真を取りに来たといってました」

 店主は表情を変えずに、その子はいままでここにいたのか、と言葉を返す。ええ、ついさっきまでそこの椅子に座ってました。
「妙だなあ。きっと間違いでしょう。この店ではもう現像を受けていないんです。それより、あのフィルムはとっくに期限切れですよ。それで感度が出てないものだから、プリントは苦労しました」
 僕はタバコに火をつけ、おおきく吸い込む。
「プリントは出来そうですか」
「一枚だけどうにか。色は濁ってますが、服の色はわかるでしょう。いま水洗いをしているところです」
 店主はそう言ってふたたび店の奥に消える。僕はタバコの煙を吐き出して目をとじ、先ほどの会話を思い出す。
「カメラを向けたら、クジャクはどうすると思う」
 少女は僕の問いにちいさな笑みを浮かべ、首を横に振った。結んだ髪がほどけ、赤い服の肩にはらりとかかる。外を車のライトが往き過ぎ、僕が知っている女性の面影があらわれて消えた。

(以下次号)

1999年10月掲載



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マカロニ・アンモナイト編集部