マカロニアンモナイト
月刊特集 写す人 第二回
写真用レンズをつくる人たち
  
富士写真光機を訪ねて −前編−
文/中山慶太  取材協力・写真提供:富士写真光機株式会社
前編目次 1 2 3 4 5 2003年1月掲載


§レンズ研磨の現場を見学する§

 富士写真光機の会社案内には“「光」その無限の可能性を追求する”とある。同社が手がける製品は中判やコンパクト機などのスチールカメラのみならず、テレビレンズ、広範な産業用レンズ、医療機器など多岐にわたる。なかでも有名なのはテレビカメラ用のレンズで、実にズーム比87倍(1)のスーパーレンズやハイビジョンカメラ用レンズなどを開発、この分野では世界の50%のシェアを握っている。また『写ルンです』等でおなじみの樹脂製非球面レンズでは世界一の生産量(月産5千万個という)を誇るという。

 FUJINONレンズはもちろんデジタルフォトグラフィーの世界でも活躍している。ちょっと意外なところでは携帯電話用光学ユニット(ハニカムCCDとの組み合わせ)などの展開が挙げられる。

「そのうちにカメラっていうと、ケータイについてるやつを指すようになるんでしょうか」

 今回の取材をコーディネートしてくださった総務部の天野さんに、そう冗談交じりで訊くと「まさかそれはないでしょう」と一笑に付されたけれど、ハニカムCCDとFUJINONレンズのマッチングはデジタルフォトの世界でも強力な武器になるという見解だった。


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曲率の緩いエレメントは同時に多数の研磨ができる。研磨皿にはこのように常時研磨材を含んだ水がかけられる。研磨の工程によって研磨材の色が少しずつ変わるのが面白い。この廃液の処理も大変で、ガラスを含んだ研磨材を時間をかけて沈殿分離させるなどの手間が必要になる。富士写真光機では環境面に配慮した製造工程の見直しを行い、この分野における国際規格のISO14000シリーズを取得している。
(写真:富士写真光機)

 その天野さんの案内で、先ずレンズ製造の現場を見せてもらう。富士写真光機は現在日本国内に4カ所の生産拠点を持つが、さいたま市の本社では主として少量生産の業務用レンズを手がけているそうだ。

「レンズの製造現場って、企業秘密が多くて取材不可って聞いたんですが」
「ええ、確かにそういう部分もあります。今日は研磨工程の見学だけということで」

 と、特別に許可をいただいて足を踏み入れた工場は、昼ひなかでも薄暗い。おまけに人の姿も疎らで、いかにも秘密めいた雰囲気だ。細長い通路の脇には研磨用の自動機械(カーブジェネレーター)が並び、お椀型の物体が不思議な回転運動を繰り返している。お椀は一定の曲率を持つ研磨皿で、この内側にレンズが固定される。研磨皿はその表面を撫でるように三次元的な動きがプログラムされている。

 一部の工程では一度に複数のレンズを研ぐ大型の皿も稼働しているが、これは通常のレンズのカーブが完全球体の一部を切り取った球面だから可能なワザだ。やはり球面状の台に複数のレンズを並べて固定し、ひとまわり大きな球面に見立てて研ぐのである。

「手前から奥に進むにつれて研磨の精度が高くなる工程です」

 見た目にはあまり変わらないが、傍らに置かれた研磨済みレンズは確かに奥に進むにつれて表面の光沢が増していく。こうした研磨は通常3〜4工程繰り返される。工作技術が進歩した現在ではこの自動研磨よりもさらに量産に適した製造法が確立されているそうだが、一部の特殊なレンズは今でも「職人による手磨き」だそうだ。

 現場の責任者の方に撮影許可を求めると「う〜ん」と考えてから、まあ良いでしょう、とお許しを得た。やっぱりシロウトにはわからない秘密があるらしい。

 先に書いたように、この本社工場では少量生産のレンズだけが磨かれている。造る量は少なくても、レンズのサイズや曲率に合わせた研磨皿が必要になるはずだ。種類はどのくらいあるのだろう。

「現在は二千五百種類くらいですね。新規に必要な場合はその都度調達しています」

 ということは、たぶんどんなレンズでも磨けるということだ。事務所の片隅にある大昔の傷カビクモリ付きレンズを持ってくれば再研磨してもらえたかも、と僕はちょっぴり後悔したのである(そんなサービスはもちろんやってません)。


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初期段階で『荒摺り』(あらずり)を施されるレンズ。研磨の繰り返しによってレンズ限りなく透明に近づいていく。目標設計値のカーブを得たエレメントには、最後の仕上げとして偏心を取り除く「心取り」(しんとり)と呼ばれる研削加工が施される。
(写真:富士写真光機)

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