マカロニアンモナイト
月刊特集 写す人 第二回
写真用レンズをつくる人たち
  
富士写真光機を訪ねて −前編−
文/中山慶太  取材協力・写真提供:富士写真光機株式会社
前編目次 1 2 3 4 5
2003年1月掲載

§付録:簡易版 レンズの基礎知識§

 写真関係の記事のなかでも、特にレンズの解説は難しいとお思いの方が多いだろう。これは日常でほとんど馴染みのない専門用語が頻繁に使われるからだ。ここではごく簡単な解説を掲載するが、より深い知識を得たい方は専門書(たいていの公立図書館で閲覧できます)を参考に研究していただきたい。

「収差」

 レンズ設計は収差との戦いだ。収差とは写真用に限らず、すべてのレンズが本質的に持つ宿命のような性質である。この収差をどれだけ低減するかが優秀なレンズを産み出すひとつの鍵となる。
 通常、レンズの収差は次の5項目(1850年代にL.フォン・ザイデルが発表したため『ザイデルの5収差』と呼ばれる)に分類される。
●非点収差:レンズ周辺からの入射光が異なる二点で結像し、本来の結像面に焦点を結ばない場合に起きる現象。点が点として写らず、解像力の低下や「二線ボケ」などを招く。
●球面収差:被写体の一点から出た光がレンズ中央と周辺で前後が異なる位置に結像する現象。この収差が残ったレンズでも絞り込むことである程度は取り除くことが可能。ソフトフォーカスレンズは意図的にこの収差を残して作画効果に利用している。
●像面歪曲:フィルムの中央と周辺で焦点面にずれが生じ、その結果画像が歪む現象。
●歪曲収差:樽型や糸巻型に画像が歪む現象。結像の倍率が平面上で一定でないために起こる。特にズームレンズでこれを完璧に補正するのは困難とされる。
●コマ収差:光軸からずれた被写体から出た光がフィルム面で正確な点状に写らず、彗星のように尾を引いて結像する現象。

 上記以外の収差としては
●色収差:長焦点レンズなどで画像の周囲に原色の滲みを生じる現象。光の波長によって結像の位置が異なるために起きる。ニュートンが発見した。
 などがある。


「レンズの配置」

 設計者は収差を取り除くために、レンズの形状と素材を最適化したエレメント配置を行う。この配置は19世紀末から20世紀にかけて欧州でさかんに研究され、さまざまな基本形が発表された。独ツァイス社の『テッサー』『ゾナー』などはこのエレメント配置の基本的な雛形として有名だ。
 レンズの構成は形状だけでなくガラス素材の選択も重要で、これは光の波長に対する屈折率と分散性の点から選定される。写真用レンズの素材としては通常光学ガラスが用いられるが、近年では樹脂系の素材も登場している。


「レンズの形状」

 写真用レンズエレメントの基本形状は一定の曲率を持つ「球面形状」である。このタイプのエレメントは量産性に優れている反面、諸収差の完全な補正が難しい場合がある。これに対し、曲率が一定でないエレメントを「非球面レンズ」と呼ぶ。非球面の活用は高度な収差補正をより少ないエレメント数で可能にするが、量産が困難(機械研磨が難しい)という欠点を持っていた。現在ではプレス成形による「ガラスモールド非球面」やガラスの表面に樹脂層を重ねる「ハイブリッド非球面」などの量産技術が確立され、多くの写真用レンズに導入されている。

 写真用レンズの設計は多種多様な素材を組み合わせて目標の結果を得る作業だ。この命題には描写性能、量産性、コストなど多岐にわたる。私見だが、レンズ設計にはこの上に“人の目に好ましい再現性”という項目も含まれるような気がしている。レンズには設計者の美意識が出るもので、「非球面イコール高性能レンズ」などという単純な見方はできないはずだ。レンズ設計は奥深い作業である。

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