マカロニアンモナイト
webマガジン「マカロニアンモナイト」特集
郵便切手のすべて
〜原始メールにアートを乗せて〜【前編】
文・写真/河野朝子
前編目次 1 2 3 4
2003年11月掲載

■2■ 切手ができるまで −1−

5人の精鋭、空だって飛ぶ

 てなカンジで、蒐集家以外の人間にもめっきりわかりやすく魅力的なものとなった日本の郵便切手だが、驚いたことにそれはたった5人(現在)のデザイナー達の手によってほとんど全てが制作されている。切手作りの部署には少なくとも20〜30人はいるだろう、とノンキな元お役所を想像していた私はまずその事実に「うっそぉ!」となってしまった。

 5人て言ったら、それじゃあサッカーのワールドカップの日本代表よりはるかに少ない『日本代表』なワケじゃん*。私もデザインや印刷に関わる仕事をしているので、その『たった5人』の大変さは身に染みて想像できる。しかも背中に日の丸背負ってるんである。実際訪れてみると本気で無茶苦茶忙しそうな職場だった。

 これは別に郵政省→総務省→日本郵政公社と姿を変える過程**でリストラによって人数が減ったわけではなく、郵政省の頃からだいたいこれくらいの人数でやってきたのだそうだ。し、知らなかったよ、、、

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ここれがいつものあの切手の原画だぁーー!
下に並べてある切手シートと比較すればその大きさがおわかりであろう。

 この5名による切手デザイングループが何をしているかというと、基本的に切手やハガキ(かもめーるとか年賀状とか)の企画からデザインまで全てを一挙に行っている。特にシリーズ切手***はマーケティングから何から何まで切手デザイングループの仕事だ。

 ふるさと切手のような地方の支社のものでも、その『発行』までの審査や指導、ディレクションは郵政公社の切手デザイングループで行っている。なにせ切手デザインは特殊技能のため人材がそこにしかないからだ。

 記念切手の場合はもうちょっと仰々しくなる。毎年春くらいになると次年度の行事やイベントの予定から「記念切手にふさわしい」と思われるもののリストが各省庁から出され、切手デザイングループと事務方によってとりまとめられ審査などが行われる。それからそのイベントに関する綿密な取材だの図案の決定だの作画だのがなされていくのだ。

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完成品はあんなちっちゃいものでも実はこんな細かいところまで描かれている。これは50円切手のメジロさん原画の拡大図
※写真提供:日本郵政公社

 そういえば日本中のキャラ好きに衝撃を与えたディック・ブルーナの『ふみの日』シリーズ(〜2002年)、「なぁんだ、お役所(当時)だってやればできるじゃなぁい!」と私も買いに走ったものだが、あれは一体どういうイキサツで実現されたのだろう。

 ブルーナ切手は2001年に行われた国際切手展のイメージキャラクターに使われることを念頭に置き、若年層や女性にもっと利用してもらえる切手を、としてその6〜7年前から企画された(実際の最初の発行は1998年)。つまりただの思い付きじゃなくじっくりとコンセプトから練られたものだったワケで、私なんざすっかりその戦略にハマってしまったクチなのだね(やられたー!)。

 さすがに国家の発行する切手がいきなりただの流行りもんじゃマズいので、作家選びは熟考されブルーナ氏に白羽の矢が立った。日本の代理店を通しブルーナ氏からOKが出て、そうと決まったらオランダに担当者が飛ぶっきゃない(ブルーナ氏はオランダ在住)。グループリーダーの森田基治氏****は自らが描いたデザイン原画(ブルーナ氏ならこう描くだろうの予想図込み)を持ってシリーズ更新のたびに何度もブルーナ氏を訪れ、「この色はもっとこう」とか「このキャラクターはこっちにいた方がいいね」などの打ち合わせをしながら原画作成を依頼したんだそうだ。

 ブルーナ切手に登場するあのメガネの女の子は私の20年来の友人のSに酷似しているのだが、その原案も実は森田さんだった。てことはあの切手のキリンもテディベアもである。資料によると『日本におけるイタリア年(2001年)*****』の記念切手も森田さんのデザインだ。絵本からイタリアを代表する絵画まで、とんでもない守備範囲が要求される職場でもある。

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額面の部分は原画ではアクリルシートに施され(現在はコンピューターで入れられることが多い)このように原画自体には額面が入っていない。
※写真提供:日本郵政公社


注1
 この『日本代表』に選ばれるためにはどうしたらよいのか伺ったところ、定期的な募集はしてなくて、欠員が出ると美術大学などで直接募集をかけるのだそうだ。当然プロとして絵が描けて、さらに企画、プロデュース、プレゼンテーションなどの能力や職人的センスも必要とされる職業なんである。1枚の切手がなんかものすごくありがたいもんに思えてくるでしょ。

注2:
 公社になる以前、デザイナーの皆さんは『技芸官』と呼ばれていた。この技芸官という名称は切手デザイナーだけに与えられたもので、他に、宮内庁の帝室技芸員と、大蔵省印刷局(現在は国立印刷局)の工芸官と、芸術に関わる国家公務員にだけ与えられた特殊名称が3つだけ存在したそうである。


注3:シリーズ切手
 通常1年〜3、4年かけて発行される、あるテーマに沿ってシリーズ化された切手。時代性を考慮し、タイムリーさを重視して企画されることが多い。蒐集家は記念切手もいいけれど、シリーズ切手を全部揃えることに情熱を燃やすもの、らしい。




注4:森田基治氏
 切手マニアなら一度はその名前を聞いたことがあるはず、な切手デザイナー。この方に会う、ってことは例えて言うならポール・マッカートニーが「日本に行ったらミスター宮本(任天堂でマリオシリーズのゲームを手がけた宮本茂氏)に会いたい!」って騒いで対面したような、マニアにはそんくらいの意味があるんです。

注5:日本におけるイタリア年
 イベントのメインキャラクターが、ウフィツ美術館(フィレンツェ)所蔵のボッティチェルリ画『ヴィーナスの誕生』のヴィーナスが日の丸を抱えてる図でカッコよかった。イタリア年の記念切手は2種類(枚数としては3枚)あったが、その1枚はそのイベントのメインキャラにイタリア国旗のカラーがデザインされていた。もう1種類は同じくボッティチェルリの『受胎告知』を2枚綴りにしたもので、イタリアでも同様の切手(1枚にまとめられたデザイン)が発行された。
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※協力:日本郵政公社


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