マカロニアンモナイト
webマガジン「マカロニアンモナイト」特集
郵便切手のすべて
〜原始メールにアートを乗せて〜【後編】
文・写真/河野朝子
後編目次 5 6 7 8
2003年12月掲載

■6■ さ〜て来年の年賀状は?

 つーワケで来年の元旦から配達される年賀切手についてである。

 年賀切手には伝統的にその年の干支にあたる日本の郷土玩具がデザインされているのはお気づきであろうか。子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥の12種類の動物の郷土玩具を全国から集めて切手の意匠に使っているのだが、これとて、ちょっと旅行に行ったら可愛いの見つけたから使っちゃいました、なんていう安直なものではない。

 郵政公社の全国13支社等に収集と推薦を依頼し、重複を避けるために過去に使用されたことがない物を選び、さらに今まで使われたものと地域に偏りがないかも調べ、デザインしたときに見栄えがするかも考え、それでやっとこさ作画にかけられ、それでまたその中から「これ!」という物が選ばれるのである。毎年それやるって、考えただけで大変だ。

 ところで年賀切手には他の切手にはない秘密がある。年末の大量郵便流通の中で、年賀切手が貼ってあるものとそうでない通常の物を分けるのってやっぱ人海戦術でしょ? 毎年9月くらいになると郵便局のアルバイト募集のチラシが郵便受けに入ってるし、と思っていたのだが、そうではなかった。

 10年前くらいから、年賀切手以外の切手には紙の段階で特殊な塗料が塗られ、ブラックライトを当てると発光するようになっていてる物が採用されている。つまり発光検知マシンを通すことによって「このハガキには切手貼ってないじゃん」「この封筒にも切手がないぞ」というのを機械が自動的により分けてくれるようになっているのだ*。知らなかったー! 切手が光るなんて。てことはアレだ。切手を持ってクラブとかディスコのブラックライトがあるところに行くと切手が光っちゃうってことだ。全身に切手貼って踊ってたらなんかすごいことになりそうな気がする(んなヤツぁいねぇ)。

 ところが年賀切手にはその塗料が塗られていない。要するに年賀切手は発光検知マシンにとっては「切手貼ってない」のと同じことになり、機械ではじかれるので年内に誤って配達されるのを避けることができるって意味である。もちろん「通常の切手が貼ってあるけれどやっぱ年賀状かもしれない郵便物(赤字で「年賀」と切手の下に記入してある)」も発見できるように分類作業段階で注意が払われるだろうし、「切手貼ってない郵便物の山」から年賀郵便を選り分ける作業も発生するからすべてが「あ〜ラクチン」と言うわけには行かないのだけれど。

 で、年賀状と来たらハガキの方も気になってくるが、ハガキは紙に何か塗ってあるというわけではなく、なんつったって、あのいつも赤いインクで印刷されているのが「年賀状だよーん」という目印になってるのだ(ちなみにハガキはオフセット印刷である)。これも人海戦術ではなく色検知マシンで年賀状とそうでない物が分けられる。そのためもあって年賀ハガキの印刷は赤系の色(単色刷)が使われているのである。

 また、お年玉付き年賀切手年賀ハガキだが、これらには連番や組番号(ハガキのみ)が印刷してある**。その連番などは印刷工程の最後、検品を通過したもの(ハガキの場合は裁断される前の物)に専用の機械で印刷される。切手でもこの連番印刷機械による部分だけは凸版(普通のスタンプなんかとおんなじ)印刷だ。それが来年のお年玉付き年賀ハガキだったら合計約44.5億枚、切手だったら合計で1850万枚、シャカシャカ印刷されるんだね***

 よく見るとこの連番の背後にはなにやらウニャウニャした模様が描かれている。年賀ハガキの方のウニャウニャはお馴染みだけれど、さらによく見れば切手の連番の背後にもウニャウニャがあることに気がつくだろう。これは彩紋(さいもん)と言って、紙幣に入ってる模様と同じように偽造を防ぐ意味があり、国立印刷局が専門で作っているものだ。印刷局にいくつか彩紋を作ってもらいその中からその年の賀状のデザインにあった物を選んで使用する。最近のお年玉付き年賀切手ではこの彩紋もオシャレにデザイン化されているので注目してみたらいかがでしょう。

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年賀ハガキ原画で、コンピューターから出力されたもの。お持ちになっているのは『温泉につかるサル君』を作画した星山さん。こんな美人が手がけてるってわかったらいつもよりいっぱい買っちゃうよね。




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こちらが年賀切手。右下の80円の切手は星山さんの手書き。年賀状は早めに出しませう。

 さて、来年は申年なので全国津々浦々、賀状にサルが溢れること必至なのだが、そのサルの大群の先頭を切って年賀ハガキの温泉につかるサル君が妙に可愛い。この絵を描いたのは切手デザイナーの星山理佳(あやか)氏で「あ、やっぱ女の人が描いたんだ!」なキュートさだ。

 そのサルのイラストは図鑑などを参考にしながらも特に元になる写真資料はなく、パソコンに直接ペンタブレットで描かれた。消印の代わりになる部分の桶に手ぬぐいや連番の間にいるサル君も遊び心があって可愛い。これも様々なラフスケッチの中から選択された12〜13図柄を切手デザイナーや外部の画家がきちんと描き起こし、その候補の中からまた選び抜かれたものである(もう1枚の羽子板もそう)。

 ちょっと前まではもう少々堅めのデザインが多かった年賀ハガキだが、時代とともにこういった茶目っ気のある物も受け入れられるようになってきた。そこで来年用には温泉サル君が採用になったんだそうだ。毎年なんとなく出してしまいがちな年賀状だけれど、ちゃんと時代性が反映されているのであった****

 星山さんは今年の年賀ハガキの編み物をするヒツジのイラストも描かれたそうなのだが、それって自分で出すときに矢印付けて「これ私が描きました!」ってやったりしませんでしたか? と伺ったら「しません」と笑われてしまった。私だったら宛名プリントするついでにプリンターで「これは私が!」と全部に入れちゃうところなのだが、星山さんにそんな厚かましさはありません*****

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冒頭を飾ったサル君達、もう一回登場。右が愛媛県松山市の『伊予一刀彫・三番叟』、左が兵庫県神崎郡の『姫路張子・出世猿』である。


注1
 それ以前は年賀切手も色によって分けられていた。昔の年賀切手をよく見ると太い四角い枠が描かれているが、その色が機械による検知に使われたんだそうだ。

注3:
 来年のお年玉付き年賀ハガキは額面50円の無地の通常の物(温泉につかったサル君)がインクジェット紙や視覚障害者用くぼみ入りなど合計して約40.1億枚、寄付金付き絵入りの55円(2円分は図画等経費)と寄付金付きインクジェット紙53円の羽子板図案が合計4.4億枚、切手はお年玉ナシの50円が4千万枚、80円が750万枚、お年玉付き切手(寄付金付き)は53円が1500万枚、83円が350万枚発行される。

 DPE店の写真年賀状が増加したり、パソコンで簡単に宛名をプリントできるようになったりで、年賀状の発行枚数はこのところ増加していて来年分は今年の14%増だそうだ。

 ついでにお年玉の1等賞は100万本に1本、2等は10万本に1本、3等は1万本に2本。


注4:
 最近DPE店で注文する写真のポストカードお年玉付き年賀状だったりするけれど、アレは最近の技術で写真と賀状をピッチリ貼り合わせることができるようになっているのであって、印画紙の裏が最初から年賀ハガキになっているわけではない。これも時代による技術の進化の表れなんである。

注5:
 星山さんは通常の郵便物を出すときもわざわざ自分デザインの切手を「私が! 私が!」で貼ったりはせずに普通切手を使うそうで、「ヤマセミ」の80円切手(森田氏作画)が最もお気に入りなんだそうです

注2:
 これらの連番が振られているのはつまり「クジ」だから、に他ならないのだが、外国にそういう物を送付するにはチト問題なときもある。

 以前合衆国に住んでいる友人宛に、お年玉付き年賀ハガキにエアメール分の切手をプラスして送ったら送り返されてきたことがある。アメリカ合衆国など多くの国では富くじが禁止されていて、あちらさんにとってはお年玉付き年賀ハガキもそれに該当したからだそうだ。

 特に合衆国が日本の郵政省に送付禁止の通達をしてきたため、日本も禁制品扱いとしていたようだが、1999年、アメリカから「送付禁止品から除外する」との通達があって日本のお年玉付き年賀ハガキをアメリカに送っても大丈夫となったらしい。ただ一部の海外では「場合によっては(気分によっては?)」返送されてしまうこともあるようなので注意は必要だ。

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※協力:日本郵政公社



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マカロニ・アンモナイト編集部