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ヘリコプターに乗ろう!(前編)

文・写真/中山慶太  取材協力:本田航空株式会社
前編目次 1 2 3 4
2004年3月掲載


§回転翼機に乗ろうと思った§


 英国の作家、フレデリック・フォーサイスは自身が編んだ短編集“Great Flying Stories”の序文で「世界には真に寂しい場所が5つある」と述べている。自ら空軍のパイロットという経歴を持つ彼が高い山、極地、砂漠、海と並べて置いたのは空である。その序文のなかで彼は「人間は他の4つの場所に赴く能力を持っていたが、空を飛ぶ能力は持ち合わせていなかったはずだ」という。空には棲むものもなく、空虚で、上にはただ宇宙があるだけだ、と。

 にもかかわらず、あるいはだからこそ、人間は空に憧れを持ち続けてきた。先人達が空を飛ぶ機械の発明に夢中になり、その挑戦が実を結んだのはほとんどこの百年のあいだのことだ。今の先進国では、飛行機に乗った経験を持たないひとの方が珍しいだろう。僕らは密閉された空間でなんの不自由もなく、快適に空の旅を愉しむことができる。飛行機嫌いを自認するひとには、苦痛でしかないだろうけど。

 ところで空を飛ぶ機械にはふたつの種類がある。専門用語で書くと、固定翼機回転翼機だ。前者はふつうの飛行機、後者はいわゆる「ヘリコプター」である。どちらも漢字四文字からなるこの名称、実は両者の違いを端的にあらわしているのだけど、それは後で述べるとして。空の旅がこれだけ普及したこんにちでも、後者に乗った経験があるひとはそれほど多くない。

 それは無理もないことで、ヘリコプターは定期旅客便に用いられることがほとんどない。言い換えると、移動用の乗り物としてはあまりにも一般的でないのだ。固定翼機のように専用の滑走路を必要とせず、どこにでも降りられる機械なのに、考えてみれば不思議なことである。

 この原稿を書いている僕にしても、固定翼機にはけっこう乗っている(飛行回数は新幹線よりずっと多い)し、熱気球に乗せてもらったこともあるのに、ヘリコプターは未体験だ。それゆえ知識は不足して疑問も多い。歴史、飛行する原理、乗り心地、そして操縦法……。

 と、誰もが知っていそうで実はよく知られていない乗り物の話をするために、ヘリコプターに乗ってみることにした(いや実は高いところがヒトイチバイ好きなだけなのだ)。動機はともあれ、巨大な竹とんぼのようなこの機械は、僕に新しい空を見せてくれるだろうか。フォーサイスが語るように、それが「空虚で寂しい場所」でなければ良いのだが。



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現代の民生用ヘリコプターを代表する機種、アエロスパシアルAS350B。フランス製の同機は「ユーロコプター・エキュレイユ」の通称で親しまれている。ベストセラー機である同機は世界中に販売され、日本でも60機以上が就航する。本田航空はこの機種を2機所有している。巡航速度235km、最大速度246km、航続距離740km、定員5名。

§ヘリコプターの歴史(1)§

 翼を羽ばたかせるのではなく、回転させて空を飛ぶ。大空に舞う鳥とはおよそかけ離れた姿だが、この概念を(おそらく)人類の歴史上はじめて提出したのは、イタリア・トスカーナ生まれの天才レオナルド・ダ・ヴィンチである。 彼が15世紀の後半に表したスケッチには、螺旋状の翼を持つ不思議な機械が記されている。この飛行機械の姿はかつて日本の航空会社が尾翼にあしらっていたから、ご存知の向きも多いだろう(余談だが、レオナルドのスケッチは「飛行機械ではなく、野菜の水切り機だ」とする説もあるらしい)

 レオナルドがこの機械をじっさいに飛ばして見せたかどうか、そのあたりは不明なのだが、彼は物体を空中に浮かせる方法をおおむね正しい筋道で発見した。とはいえ、その羽根をどうやって駆動し、また空中でどのように前進させるかはまだ思いついていない。彼は船の推進装置について研究し、そこに用いたスクリューを水と同様の流体である空気のなかで回転させれば浮力が得られる、と考えたらしい。

 レオナルドのスケッチをもとにした模型は、今もあちこちの博物館にある。はたしてそれを動かしたらどうなるか? 興味は尽きないけれど、結果はだいたい分かっているようだ


ヘリコプターの歴史 
→(1)、→(2)→(3)→(4)→(5)→(6)→(7)


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こちらはやはり本田航空が所有する2人乗り小型ヘリ、米国製ロビンソンR22。卵形の機体が可愛い。上のAS350Bに比べると子供のようなサイズだが、巡航速度177km、最大速度190km、航続距離592kmとあなどれない性能を持つ。
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