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ヘリコプターに乗ろう!(前編)

文・写真/中山慶太  取材協力:本田航空株式会社
前編目次 1 2 3 4
2004年3月掲載


§最初はちょっと滑走路まで§


 社屋を出ると、隣接した格納庫から1機のヘリが引き出されている。どうやらエプロンに駐機したこの機体が本日の体験飛行に供されるらしい。 「私は別のクルマで行きますので、どうぞ乗ってください」と、大型のスライドドアを引き開けながら久保さんが言う。取材に同行した面々(ライターの河野朝子、編集部の本小まゆみと女子大生のセヤマ・マリコ。全員がヘリ初体験だ)が戸惑っている間に、僕はちゃっかり副操縦士席? に乗り込む。初飛行は特等席である。

 クルマ並みという全幅から想像する以上に、機内は広い。というか、窓がとても大きいので広々と感じる。隣の操縦席の前には固定翼機でもお馴染みのアナログメーターがぎっしり詰まった計器盤がある。素人にはほとんど意味不明の計器ばかりだけど、メカ好き、飛行機好きにはタマラナイ光景だ。

 ところでヘリコプターって、どうして前や後ろに動けるんですか。上下運動ならわかるんですけど。というこちらの初歩的な質問に、操縦席に収まった道野さんが丁寧に答えてくれる。

「それはメインローターのピッチを変え、軸を傾けて回転面を動かすからです。それで機体に揚力と推進力を同時に与えることができます。前後だけでなく、上下左右斜めのどちらの方向にも動けますよ」さらに加速するときは機体を傾ける。ちなみに離翔前のアイドリングから飛行状態まで、ローターは常に一定速で回転している。この日搭乗したAS350Bの場合は毎分380回転だそうだ。

 固定翼機と違って、ヘリには安定した揚力を発生する翼も、空気の抵抗を利用して方向を変える補助翼も存在しない。揚力は巨大なメインローターで発生させ(=回転翼)、そのブレードのきめ細かなピッチ制御と小さなテールローターの組み合わせで姿勢をコントロールするのだから、もちろん操縦は固定翼機よりはるかに難しい。操縦は両手と片足を使うのだけど、このあたりの詳しいお話しは後編で。

 そのメインローターが動き出し、機内が轟音に包まれ(といっても、思ったよりずっと静かで飛行中の会話にもさほど支障はなかった)たところで、後の座席のマリコが騒ぎ出す。

「え〜あたし、やっぱ止めようかな。降りる」実は彼女は高いところが大の苦手なのである。

 時すでに遅し。AS350Bはあっという間に(いや、後席でああああ〜っと叫び声が上がる間に)ふわりと宙に浮いた。この時は社屋から数百メートル離れたホンダエアポートの滑走路までの移動だったけど、そのスムーズな飛行には驚かされた。現代の旅客用ヘリでは騒音だけでなく、震動もほとんど気にならないのだ。

 前の座席に乗って感動したのは、視界がすばらしく開けていることである。左右は180度以上、アタマの上にも窓が付き、斜め前方の足下もしっかり見わたせる。これは高い機動性を持つヘリならではなのだが、飛行中の道野さんはその広い視界を利用して、視線をつねに周囲に巡らせている。固定翼機が頻繁に発着する滑走路周辺での飛行は特に気を遣うらしい。

 体感飛行時間は約30秒、じっさいにはたぶん1、2分は飛んでいたはずだけど、僕のヘリ初体験はあっけなく幕を閉じた。でもこれで「ヘリコプターは平和な乗り物だ」などと思いこんだら大間違い。この数時間後にやって来る再フライトで、道野機長が操るAS350Bは驚天動地の絶叫マシンに変貌するのである。



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TVや映画でお馴染み、ヘリの離翔シーン。前屈みの姿勢はローターの回転面に揚力と推進力を同時に与えるためで、急加速時にはこの姿勢がもっとも効率が高いそうだ。

§ヘリコプターの歴史(3)§

 時代は19世紀に下り、ヘリコプターはいよいよ現実の乗り物に近づいていく。これまで模型を動かしていたゼンマイ仕掛けのモーターに換わって、ローターの動力源には新発明の蒸気機関も試みられた。その模型を制作したフランス人技術者、ダメクールは同時に「ヘリコプター」という言葉も発明した。これはギリシャ語の「へリックス=螺旋」と「プテロン=翼」を組み合わせた造語である。

 ダメクールをはじめ、19世紀には数多くの研究者がこの乗り物の実用化第一号をめざして技術と発想を競ったが、けっきょく有人飛行にはいたらなかった。これは巨大な回転翼を駆動する高効率のエンジンが存在しなかったためだ(発明王エジソンは電気モーターで挑戦して失敗したという)。そして20世紀初頭、ライト兄弟が固定翼機を飛ばせた後も、ヘリコプターはいまだ模型による実験の段階に留まっていた。

 1920年代までに何人かの技術者が試作ヘリを飛ばせ、なかにはかなりの成功を収めた者もいた。だが真の意味で史上初の栄光を手にしたのは、ウクライナ・キエフに生まれ、ロシア革命のさなかアメリカに亡命した小柄な技術者だった。その名をイゴール・イワノビッチ・シコルスキーという。
(ヘリコプターの歴史/以下後編へ)

ヘリコプターの歴史
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※ヘリコプターの歴史・参考文献:
航空情報・別冊「ヘリコプターのすべて」西川渉著/「巨人機ものがたり」中山雅洋・他著、など。

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メインローターが生み出す強大なカウンタートルク(逆向きの回転力)をうち消すテールローター。回転力はメインローターと共用のエンジンが発生し、複雑なギアと長大なシャフトを介して駆動される。AS350Bのテールローターは金属製、回転面積は3平米弱だから「畳一枚半とちょっと」。アタマの上で回転するメインローターと違ってこちらには「危険」の文字が。
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