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ヘリコプターに乗ろう!(後編)

文・写真/中山慶太  取材協力:本田航空株式会社
後編目次 5 6 7 8 9
2004年4月掲載


§有視界と目眩(めまい)の話§


 およそ乗り物もいろいろあるけれど、なかでもいちばん難しいのがヘリコプターの操縦だという。これは趣味でラジコン模型を飛ばすひとから聞いた話で、初心者にはフツーに飛ばすことすら困難だという。模型と実機をいっしょにするのは失礼と承知で、道野さんにヘリの操縦の難しさを訊いてみた。

「確かにラジコンも実機も原理はいっしょですが、私はヘリの操縦がそれほど難しいと感じたことはありません」さすがに毎日仕事で飛ぶプロは違う。でも、シロウトには逆立ちしても真似できない技術はありますよね。

「しいていえば、ホバリングですね。空中で一定の姿勢を保ったまま静止するのは、慣れないと難しい。特に目標物がない場合は困難です」

 目標物が必要なのは、自分の相対的な位置を視覚的につかんで機体の姿勢を制御するからだ。だから難度の高いホバリングも、地形が視認できる低空やビルの上空などでは比較的やりやすいという。

「逆に高度がある(高い)場合や、あるいは雲の中などは困ります」

 今はベテランの領域に入ろうかという道野さんだが、まだ経験が浅いころに雲の中で怖い思いをしたことがあるそうだ。「雲の中に入ると機体の姿勢がわかりにくくなる。極端にいうと、どっちが上でどっちが下かわからなくなるんですね。計器を見れば傾きを知ることはできるし、IFR*での飛行も可能なんですけど、真っ白な雲の中だと(操縦している人間の)感覚とズレが生じて、つい計器を疑ってしまう。これを「ヴァーティゴ」(目眩)と呼ぶのですが、初めて体験するとかなり怖いし、実際に危険な状態です」

 もちろん経験を積んだ今ではそういうことはないそうだけど、ヘリのコクピットを観るとその感覚はなんとなく理解できる。視界が素晴らしく開けていて、周囲の情況を常に確認して飛べるからだ。
「ええ、回転翼機はどちらの向きにも動かせますから、視界は重要なんですね。ただし背後は見えないのでバックはあまりやりたくない(笑)」

 そういえばTVのニュース番組では、事件の現場上空を複数の中継ヘリが飛びまわる光景をよく見る。あれは危険じゃないのだろうか。
「そういう場合はルールが決まっていて、時計方向に旋回することになっています。それでお互いの位置を目視で確認しながら飛ぶので、衝突の危険はありません」

 なんだかアブナイ話ばかりになってきたけど、道野さんや久保さんはこの手の質問には慣れているようだ。ヘリコプターを危険な乗り物と誤解するひとは少なくない。高所飛行物体恐怖症のセヤマ・マリコもそのひとりのようだが、実はヘリコプターはとても安全な乗り物なのである。その理由は回転翼機の原理そのものにある。




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AS350Bの計器板。ずらりと並んだアナログメーターが「男の仕事場」の雰囲気を醸し出す。高度や速度を示す飛行計器と油圧や燃料などのエンジン計器、そして機体の姿勢を示す計器などなど。夜間や悪天候で視界が得られない場合、パイロットはこれらの情報を頼りに飛ぶ。操縦席からの下方視界が確保されているのはヘリならでは。




















*注1:IFR(Instrumental Flight Rule)は「計器飛行」の意味。現代の航空機は高度計や地上の無線標識の方向を示す機器を搭載し、また管制区からの無線指示を得ることで視界が失われても飛行できる。通常は夜間でもVFR(Visual Flight Rule)=「有視界飛行」で飛ぶ。

§ヘリコプターの歴史(5)§

 固定翼機がそうであるように、回転翼機の進歩も戦争と深いつながりがある。シコルスキーの試作機VS-300は間もなく軍用として本格的な開発が始まり、米国では他にベル・エアクラフト社とスタンレー・ヒラーの会社が開発競争に参入した。いっぽう欧州ではドイツのハインリヒ・フォッケ博士が戦闘機で有名なフォッケ=ウルフ社を辞して別会社を設立、そこでヘリコプターを完成させていた。こちらはシコルスキーに先んじること3年、1936年の初飛行である。

 フォッケ博士のヘリコプターはオートジャイロ(固定翼機と同様に推進用のレシプロエンジン・プロペラを持ち、水平に取り付けたローターを自由回転させて揚力を得る方式の機体。揚力発生用のローターにはエンジンを持たないため垂直上昇はできない)を発展させたような形態で、性能は多くの点で米国勢を凌いでいたらしい。大戦中にはこれを発展させた数機が実戦配備されたが、 ドイツ敗戦とともに技術は途切れ、以後米国製ヘリコプターは長らく世界の主流となる。こんにち僕らがよく知っている機体デザインの多くは、シコルスキーやベルの会社が開発したものだ。


ヘリコプターの歴史
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ヘリを飛ばせるにはこれだけの免許と証明書が必要。第一種航空身体検査証明書、技能証明書(いわゆるライセンス)、計器飛行証明書・操縦教育証明書、航空級無線通信士免許証の4通。ただし自動車と違ってライセンスは更新制ではなく、一生モノである。もちろん海外でも通用する。
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マカロニ・アンモナイト編集部