マカロニアンモナイト
月刊特集
写真

化粧師の世界(前編)

kewaishi-no-sekai
文・写真/中山慶太  取材協力:坂東流 三津加会

前編目次 1 2 3 4 →後編目次へ 2004年9月掲載


§一生かかっても演じきれない§


 さて、顔師・新井清さんのお話はこれからが佳境なのだけど、それは次号の後編に譲ることにして、ここで化粧のモデルを務めていただいた坂東晃朱緒さんに「日本舞踊の魅力」を訊いてみよう。

 晃朱緒さんが日本舞踊を習いはじめたのは九歳のころ。以来×年間、欠かさず稽古を続けて舞台に立ち続けてきた。今回の「猩々」は彼女にとって十六回目くらいの舞台になるそうだ。

「舞台で踊る曲は自分で選ぶ場合と、今回のように先生(坂東流・坂東三津加さん)に選んでいただく場合とふたとおりです。猩々は「私のキャラクターに合っている」と思われたんでしょうね」

「稽古をはじめたのは一年くらい前でした。(舞台では音曲のひとが入るが、稽古では)ずっと録音された音源で合わせるんです。それで「ツボ合わせ」といって、本物の生演奏を入れた稽古は舞台直前に1回だけ。舞台の大きさも稽古場と本番ではぜんぜん違うしで、ぶっつけ本番みたいなところはありますね」

 舞台前に化粧をしているときはどんな気分ですか、と訊くと、

「こっちも舞台に向けて気分を盛り上げてる真っ最中だから、だんだんテンションが張ってくるというか、役に入り込むうえで大切な時間だと思う」という。

「日舞だと、いったん顔を真っ白に潰してから目鼻を描いていくでしょう。だからどんな顔でも良いかというとそうではなくて、けっこう難しい場合もあるみたいですね。エキゾチックな顔立ちはあまり向いてなくて、むしろクセのない顔の方が良いそうです。私の顔は描きやすいって、いつも顔師さんに褒められるんですよ(笑)


 それにしても九歳から×年間。ひとつの趣味をこれだけ継続させるのは、たとえば写真や音楽など例がないわけではない。でも日舞というのは途方もなくお金がかかる趣味でもある。

「そうですね、舞台ひとつやるにしても凄くお金はかかります。例えば歌舞伎で有名な土蜘蛛ってあるでしょう、手から糸を出す仕掛けの。あれって一本一万円もするんですよ」もちろん一本や二本では絵にならないから、それだけでひと舞台数十万円は飛ぶという。今回の彼女の舞台も、稽古代や貸衣装や化粧、それに音曲のひとたちへの謝礼などを入れるとものすごくコストがかかっている。それを舞台の十数分で消費してしまうのだから、これはとんでもない世界である。

 いや失礼。門外漢の目から見ると、ついついそういう下世話な部分にばかり話が行ってしまうのだが、そういう時間とお金を費やしてもなおあまりある魅力が日舞の舞台にはあるということか。

「やっぱり舞台で演じる、表現するということの魅力なんでしょう。ひとつの役を演じても、まだまだ次がある。演目はそれこそ一生かかっても演じきれない。だから毎回リセットして、次のことに集中する。どんどん深みにハマっていく、みたいな感じでしょうか」

 ところで今回の彼女の出番は、番組でもずいぶん後の方だった。これは芸歴の長さで決まるらしいのだが、日舞ではどれくらいのキャリアを積むとベテランとして認められるのだろう。

「それは芸歴もあるけど、やっぱりある年齢に達しないと駄目ですよ。三十代なんてまだまだヒヨッコで(笑)、五十六十にならないと本物の色香が出ない、だから私なんかまだまだ」なのだそうだ。

 そのヒヨッコの? 彼女が演じる艶やかな舞台の様子も、次号後編でご覧いただきます。ご期待ください。


河合悦子さん
拡大表示-->
坂東晃朱緒こと、河合悦子さん。舞台化粧が似合う彼女だが、素顔は「おきゃんな町娘」という風情である。酒の強さも猩々なみらしい。




























猩々
拡大表示-->
坂東晃朱緒演じる猩々。深紅の切り髪と幻想的な化粧が舞台に映える。鮮烈なカラー画像は次号後編にて。


<--Back    Next化粧師の世界/後編へ-->





表紙へ特集目次へ

Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部