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イタリア幻想写真集『ヴェネツィア、霧の光景』


文・写真/篠 利幸

前編目次|【】|4 2005年5月掲載

■都市を包む妙なる光の表情



 ヴェネツィアが多くの画家や写真家を惹きつけるのはこの都市を包む妙なる光の表情でしょう。春夏秋冬、朝昼晩と微妙な光が町並みや運河の水面などの見え方を刻々と変化させます。また、細い路地や運河に差し込む陽光がなす光と影の綾も見るものを惹きつけます。印象派の巨匠、モネや幻想的な光の空間を描きだしたターナーもそんな微妙な光に魅了された画家たちですね。写真家も同様にヴェネツィアの持つ独特の都市構造と光と影の舞台で繰り広げられるドラマを撮ることがなによりも楽しいのです。





 私がとくに好きなのは冬のヴェネツィアです。冬の北イタリアは毎日のように深い霧に包まれることが多いのですが、その霧がまるで生きもののように動き、一寸先が見えないほど深くなったかと思うと、その霧の中から突然目の前に船が現われたり、次の瞬間には魔法のように霧が晴れて豪奢な貴族の館を浮かび上がらせたりします。ことに夕暮、青い霧がこの町を包む時ほど幻想的な美しさはありません。コバルトブルーの霧の世界にライトアップされた建物が金色に浮かび上がる、このような光景を忠実に再現するにはポジフィルムが最適だと思います。長年愛用しているフジクロームのプロビアやアスティアは特にその青や金色の発色が美しく感動をまざまざと写し取り、それをスライドで上映したりプリントにして人に見せて楽しめます。昨年の写真展『TOSHI a Venezia』では1977年から2004年までに撮影した中から選んだものですが、そのような霧の朝、霧の夕暮に撮影した写真を数多く出品しました。





 この写真展はイタリアの写真雑誌[IL FOTOGRAFO]にも紹介され、それを見た読者からはエルンスト・ハースを彷彿とさせるとの称賛の手紙を頂き大変喜ばしく思いました。ヴェネツィアは水の都ですから、その水の自由闊達な変化が予期せぬ場面を見せてくれたりもします。写真のシャッターチャンスの半分以上はそうした予期せぬ偶然の表情をどう的確にとらえる事が出来るかに掛かっていますが、同時にシャッター速度や絞りの操作で水や光の表情をより豊かに表現する技術も必要でしょう。撮ることばかりでなく撮った写真の中から自分の意図したとおりになったものをまた選ぶのも写真家の仕事です。まあ、写真家は常に一瞬、一瞬の選択と決断を迫られながら仕事をしているのですね。優柔不断な性格の人には合わない仕事かも知れません。




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