マカロニアンモナイト
マカロニアンモナイト月刊特集 写す人 第四回
写真

写真画質はこうして創られる

−フィルムからデジタルまで−(後編)
文/中山慶太
後編目次【5】
2005年10月掲載



§写真画質を極める(2)飛躍の時代§


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『フジカラーHG』や『ベルビア』とともに井駒さんの記憶に残る製品がこの『リアラ』(1989年発売)。特に肌色の再現性に優れ、フジカラー純正の『リアラ仕上げ』も指定できた。現在は改良版の『リアラACE』に発展している。



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1980年代は国産フィルムにとって名実ともに飛躍の時代だった。画像は常識を打ち破る高画質で話題をさらった「フジカラーHR1600」。ISO100のフィルムに対し、同じ光量で4段分速いシャッターを切ることが可能。

 撮影禁止・火気厳禁、ついでに喫煙も御法度の一室で、富士写真フイルム品質設計評価センター・井駒秀人さんのインタビューが続く。入社以来二十余年、ひたすらフィルムの高画質化に従事されてきた井駒さんにとって、記憶に残る製品は何だろう。

「それは、すべての製品に思い入れがありますが……そうですね、強いて言えば『リアラとHG400』(1989年発売)でしょうか。このシリーズにはまったく新しい乳剤技術を盛り込み、色の再現性や粒状性、見た目のシャープさなどを飛躍的に高めることができました。特に高感度版の『HG400』は、それまで画質面でエクスキューズが避けられなかったISO400フィルムを常用フィルムに変える画期的な製品だったと思います」

 この高画質が評判を呼んだフジカラーHG400は大ヒットを記録し、それまで一部の愛好家にしか使われなかったISO400カラーネガフィルムの比率を一気に30%台にまで高める起爆剤となった。時をおなじくして大ヒットを記録した某ドライビールは“怪物商品”と呼ばれたが、こちらも立派なモンスターである。


「面白い逸話があるんですよ。HG400に先駆けて開発したSuper HR400(1986年)で、僕らはあの当時に普及しはじめたコンパクトカメラのズーム化を意識した。ズームは便利ですけどレンズが暗いでしょう。だからISO100クラスだと手ブレにつながるほどシャッタースピードが遅くなる場合がある。そこでシャッターを2段分速く切れるISO400の高画質化に傾注したのです」

「ところが、新製品発表会見で“このフィルムは『写ルンです』のために開発しました”と(笑)。ISO100のポケットサイズの写ルンですが評判になっていましたから、まぁリップサービスでしょうけれど、僕らフィルム開発陣はムッとしましたね(爆笑)。それも良い思い出です」



AgX結晶平板粒子の電子顕微鏡写真。画像下辺に示されたスケールに注目、1nm=0.001μm=0.000001mm(つまり百万分の1ミリ)である。





 井駒さんによれば、写真フィルムの高感度化は「常に画質とトレードオフの関係にある」という。感度を高めるためには光に反応するAgX(ハロゲン化銀)粒子のサイズを大きくすればよいのだが、これは粒状性を悪化させることになる。そこで光を効率的かつ均一に蓄積するAgX結晶を開発するなど、さまざまな方策が採られているという。

 ところで高感度と高画質を両立させる手法として、フィルムでは異なるサイズのAgX粒子を乳剤層に塗布する技術が発達している。これはラチチュード(写真に再現される明暗差の許容量:一般にカラーネガフィルムは広いラチチュードを持ち、適正値から多少外れた露光でも適正な濃淡のプリントが得られる)を高める効果もあるのだが、実はデジタルフォトグラフィーにもこの手法が応用されている。

 フジフイルムのFinePix F700ではじめて採用したダブル画素構造の『スーパーCCDハニカムSR』や、さらに進化してプロ向けのFinePix S3 Proに採用している『スーパーCCDハニカムSRII』などは、イメージセンサー部にサイズの異なる画素を並べることでダイナミックレンジの拡大を実現した。デジタルカメラのダイナミックレンジはフィルムのラチチュードに通じる概念で、フィルムメーカーならではの発想と話題を呼んだ技術だ。最新鋭のデジタルカメラは夜景でもノイズの発生が抑えられ、驚くほど滑らかな画像が実現されている。一見まったく異なる道を歩むように見えるフィルムとデジタルの進化だが、井駒さんをはじめとするフィルム開発者たちの「ナノスケールの粒子を極める」高感度フィルム開発はデジタルにもさまざまな恩恵をもたらしている



■スーパーCCDハニカムIV「SR」の基本構造
■ネガフィルムとスーパーCCDハニカムIV「SR」の構造

スーパーCCDハニカムSRの概念図。サイズの異なる二種類の画素(高感度なS画素とダイナミックレンジを拡大するR画素)が配置され、これはフィルム乳剤のAgX粒子の構造と共通点が多い。






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マカロニアンモナイト月刊特集「写す人第四回 写真画質はこうして創られる」
後編目次【5】
2005年10月掲載
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