マカロニアンモナイト
マカロニアンモナイト月刊特集 写す人 第四回
写真

写真画質はこうして創られる

−フィルムからデジタルまで−(後編)
文/中山慶太
後編目次【6】
2005年10月掲載



§デジタル時代のフィルム画質(2)§
 ケミカルの力を借りたアート・記憶色・イメージインテリジェンス



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1990年のデビュー以来、圧倒的な「色のヌケ」で愛好家の支持を集めたベルビア。その市場は風景写真のみならず、人物ポートレートの世界にまで広がった。安定したシャドー部の締まり、そしてそれに支えられた“イメージカラー”の豊かな色彩感は「ベルビア調」という新語も定着させるほどのインパクトを持っていた。
(撮影:中山慶太)

 さて、ようやくフィルムの画質設計のお話である。
 写真にそれほど知識や興味のないひとの多くは「フィルムは写した風景や人物が忠実に再現されるほど、高画質」というイメージをお持ちではないだろうか(実は取材者もわりと最近までそう信じていた)。これはよくある誤解で、写真の高画質化はある面で「好画質化」と書いた方が分かりやすい。つまり「観る人の目に心地良い絵づくり」が求められる世界なのだ。

 井駒さんをはじめとするフィルム開発者は、この好画質化を長年にわたって推進してきた。それは設計と言うより「デザイン」と呼ぶ方がしっくりくるかもしれない。ユーザーの好みや写真家が求める再現性をきめ細かく分析し、製品に反映していく作業は、ケミカル(化学)の力を借りたアートだからだ。


「当社のリバーサルフィルムに『ベルビア』(ISO感度50の初代ベルビア、1990年発売)という製品があります。当時としては画期的な彩度を持ったフィルムで、この画質を導く概念として“イメージカラー”という言葉を使いました。“リアルカラー”ではないのです。人間の記憶のなかの色合いに近く、もっとインパクトのある色再現性を持つという意味です」

 井駒さんによれば、人間は色をイメージ別にそれにふさわしい色として捉えておりそれを記憶色と呼ぶ。記憶色の研究はベルビア以前から進められていた。具体的にはネガカラーにおける肌色の発色や自然な階調のつながりなどである。

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原色のショーウインドーに映る街並みをアスティア100Fで撮る。商業写真の現場において、こうした人工色が織りなす風景の撮影には(製版や印刷のプロセスで基準となる)リバーサルフィルムが大きな役割を担っている。ベルビアをはじめプロビア、アスティアなどの製品群はすべて明解な個性を持ちながらプロの基準に相応しい基本性能を持つ。
(撮影:中山慶太)

「人間の肌の色や階調性(トーンの推移)はいちばん分かりやすいサンプルですね。肌の色は忠実度を高めると写真としてまったく冴えないものになる。生気のない、眠い画質になってしまうのです。そこでサンプルを作って市場調査を行い、ユーザーに好まれる肌色の再現性を作り上げたのです」


 興味深いのは、この記憶色の好みは国や地域によって異なることだ。

「やはり東洋人と西洋人では好みが違います。肌の色から来る部分が大きいようで、そのため輸出用のネガフィルムは仕向け地によって画質を変えてあります」

 つまり旅行先でフィルムを使い切って、現地で購入すると色合いが変わるということもあり得るわけだ。仕事では困るけれど、ちょっと試してみたい気もする。


 ところでフィルムの画質を左右するパラメーターとして「彩度」「コントラスト」という尺度がある。この両者は常に相関関係にあり、たとえば彩度の高いフィルムは(一般論として)コントラストも高く、陰影を力強く描く傾向にある。となるとフィルムの画質設計はこの一方を決めると他方も決まってしまいそうだが、井駒さんによれば「その点は個別に目標設計値を出して設計することが可能です。当社では早い時期から彩度とコントラストを分離して、一方を固定して他方を可変するシミュレーションソフトを開発して使っています」とのことだ。なるほど、フィルムの銘柄がきめ細かく分かれているのには意味があるのである。


 こうした技術は、デジタルフォトグラフィーの分野にも盛んに応用されている。フジフイルムが開発した画像処理技術『イメージインテリジェンス』は、膨大な人間の視覚データを駆使して撮影意図を分析、コンピュータ解析によって多彩な画像補整を行うサービスとして提供されている。その対象分野は写真をはじめ、印刷や医療まで幅広いフィールドにおよぶ。

『イメージインテリジェンス』のメニューを観ると、美肌処理技術や階調補正技術、色再現補正技術などフィルム写真で培った画像設計のノウハウが遺憾なく投入されていることが理解できる。赤目補正や白飛び防止、背景の飛びを補正する技術などは、フィルムとカメラを同時並行で手がけてきたフジフイルムならではの成果だろう。

 写真画質をデザインする技術と感性は、もう既にパトローネの外に飛び出しているのだった。


Image Intelligence
■オリジナル画像
■画像処理した最適画像

『イメージインテリジェンス』のダイナミックレンジ圧縮技術を駆使した画像サンプル。ハイライト部の白飛びやシャドー部の黒潰れが補正され、見た目の印象に近い仕上がりが提供される。






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マカロニアンモナイト月刊特集「写す人第四回 写真画質はこうして創られる」
後編目次【6】
2005年10月掲載
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