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原色のショーウインドーに映る街並みをアスティア100Fで撮る。商業写真の現場において、こうした人工色が織りなす風景の撮影には(製版や印刷のプロセスで基準となる)リバーサルフィルムが大きな役割を担っている。ベルビアをはじめプロビア、アスティアなどの製品群はすべて明解な個性を持ちながらプロの基準に相応しい基本性能を持つ。
(撮影:中山慶太)
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「人間の肌の色や階調性(トーンの推移)はいちばん分かりやすいサンプルですね。肌の色は忠実度を高めると写真としてまったく冴えないものになる。生気のない、眠い画質になってしまうのです。そこでサンプルを作って市場調査を行い、ユーザーに好まれる肌色の再現性を作り上げたのです」
興味深いのは、この記憶色の好みは国や地域によって異なることだ。
「やはり東洋人と西洋人では好みが違います。肌の色から来る部分が大きいようで、そのため輸出用のネガフィルムは仕向け地によって画質を変えてあります」
つまり旅行先でフィルムを使い切って、現地で購入すると色合いが変わるということもあり得るわけだ。仕事では困るけれど、ちょっと試してみたい気もする。
ところでフィルムの画質を左右するパラメーターとして「彩度」と「コントラスト」という尺度がある。この両者は常に相関関係にあり、たとえば彩度の高いフィルムは(一般論として)コントラストも高く、陰影を力強く描く傾向にある。となるとフィルムの画質設計はこの一方を決めると他方も決まってしまいそうだが、井駒さんによれば「その点は個別に目標設計値を出して設計することが可能です。当社では早い時期から彩度とコントラストを分離して、一方を固定して他方を可変するシミュレーションソフトを開発して使っています」とのことだ。なるほど、フィルムの銘柄がきめ細かく分かれているのには意味があるのである。
こうした技術は、デジタルフォトグラフィーの分野にも盛んに応用されている。フジフイルムが開発した画像処理技術『イメージインテリジェンス』は、膨大な人間の視覚データを駆使して撮影意図を分析、コンピュータ解析によって多彩な画像補整を行うサービスとして提供されている。その対象分野は写真をはじめ、印刷や医療まで幅広いフィールドにおよぶ。
『イメージインテリジェンス』のメニューを観ると、美肌処理技術や階調補正技術、色再現補正技術などフィルム写真で培った画像設計のノウハウが遺憾なく投入されていることが理解できる。赤目補正や白飛び防止、背景の飛びを補正する技術などは、フィルムとカメラを同時並行で手がけてきたフジフイルムならではの成果だろう。
写真画質をデザインする技術と感性は、もう既にパトローネの外に飛び出しているのだった。
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