マカロニアンモナイト
マカロニアンモナイト月刊特集 写す人 第四回
写真

写真画質はこうして創られる

−フィルムからデジタルまで−(後編)
文/中山慶太
後編目次【7】
2005年10月掲載



§デジタル時代のフィルム画質(3)§
 五つの構成要素・画像の尖鋭度・色再現性・好画質写真



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サンプル画像を示して画質改善のポイントを説明する井駒さん。現在はフィルム設計にコンピュータ・シミュレーションを駆使する場合も多いそうだが、やはり決め手は人間の官能軸に沿った実写評価である由。


 フィルム写真の画質には五つの構成要素がある。井駒さんの説明によれば、それは「感度(光量の応答特性)」「調子再現性(明暗の記録特性)」「色再現性(光質の記録特性)」「シャープネス(空間的記録特性)」「粒状性(構造的ノイズ)だという。カッコ内は学術的な表現で、素人にはちょっと意味が取りづらいけれど、なるほどフィルム設計とは学問である。

 井駒さんは「フィルムのポテンシャルはこの五つの要素の相関で決まります。感度を頂点に、他の四つを底面の角とするピラミッドを思い描いてください。その体積が大きければフィルムの性能は高くなります。ただしそれぞれの要素はトレードオフの関係にあります」という。早い話、あちらを立てればこちらが立たず、ということだ。写真用フィルムにおける画質設計とは、こうした要素のバランスを取りながら目標に向かって進んでいくものなのだ。


 面白いのは「シャープネス」という要素である。これは「画像の尖鋭度」と書くと分かったような気になれる。写真用レンズの場合は解像度とコントラストで決まる(つまりMTF曲線*である程度類推できる)のだけど、フィルムのシャープネスは粒子を細かくしたり、コントラストを上げるだけでは決まらない。入射して来た光の散乱を少なくする乳剤層の設計や、画像を形成する現像プロセスがむしろ重要なのだそうだ。

「例えば、AgX粒子(現像銀)の形状を工夫すると、画像のエッジを立てる効果を引き出せます。黒白フィルムでは昔から使われてきたテクニックで、モノクロ写真が必ずしも微粒子を良しとしないのはこの効果を求める人が多いからですね。もちろんカラーフィルムにも使われていますよ」


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「第4の感色層」を導入したフィルムにおける色再現の改善効果。赤末反射を持つ被写体(クレマチスの花びらと赤い服)の色が見た目に忠実に再現されている。こうした色再現の技術はフィルムのみならずミニラボ、そしてデジタルカメラの画質設計にも波及している。



 また「色再現性」という要素も単なる彩度や色調だけにとどまらない。例えば人工光源、それも蛍光灯で照明されたシーンを撮影する場合、10年ほど前のフィルムなら盛大に緑がカブって不自然な写真になったものだ。それが最新のフィルムでは、ほとんど気にならない程度にまで軽減されている。

「これはフィルム(のAgX粒子)が反応する光の波長に関係があります。蛍光灯の光は赤色光成分をあまり含んでおらず、旧来のカラーフィルム(デイライトタイプ)もその部分の感度が弱かったため、写真では緑や青が強調されたのです。現在のフィルムは人間の目に近い感度分布を持たせることが可能になり、見た目に自然な仕上がりの写真が提供できるようになりました。これを第4の感色層技術と呼んでいます。最初に導入したフィルムがリアラで、今では高感度ネガプロ用ネガリバーサルフィルムにも採用されています。AgX粒子の感度アップの原資を色再現性の改良に振り向けた例ですね」


 フィルムにおける画質設計の凄さとは、たんに表面的な画像操作にとどまらないところにある。それは直径わずか1マイクロ、千分の1ミリほどのAgX粒子(乳剤層1立方ミリあたり実に1200万個も充填されている)の構造や性質を変えるところから始まっているのだ。井駒さんたちのこの努力が「第4の感色層」を生み出し、そうした技術の積み重ねが「好画質写真」=人間の目に心地良い写真に結実し、デジタルフォトグラフィーの世界を含めた写真の豊かさにつながっているのである。



*注:MTF(Modulation Transfer Function)
レンズ性能の指標となる評価基準のひとつで、レンズの結像性能を「被写体の持つコントラスト」の再現性に置き換えて評価するメソッド。




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【フィルム基本知識編】
カラーフィルムの仕組み
Q1: 銀塩写真と呼ばれますが、「銀」とは何のことですか?
Q2: 第4の感色層とはどんなものですか?
Q3: フィルムはなぜ12・24・36枚撮りになっているのですか?
Q4: フィルムの画素数はどれくらいですか?
Q5: フィルムの仕組みや使い方をもっと知りたいのですが、資料はありませんか?

マカロニアンモナイト月刊特集「写す人第四回 写真画質はこうして創られる」
後編目次【7】
2005年10月掲載
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