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webマガジン「マカロニアンモナイト」特集
マカロニアンモナイト
築地場外・写真散策
〜フォトジェニックな市場を歩く〜


写真・文/中山慶太

【目次】1【2】345 2008年5月掲載
2.受け継がれる商習慣


場外には迷路のような路地が走る。多くは建物の内部を貫く形でつくられ、また途中で折れ曲がっていることもある。通り抜けできるか、それを試しながら歩いてみよう。



 「営業時間は2時からお昼まで。正午ちかくには売り切れる商品も多いね」

 ほら、これを見てご覧、と空っぽの陳列棚を指すのは、漬物卸問屋「つきじ広洋」の大澤社長。数時間前まで、そこには新鮮なサラダが山盛りになっていたのだそうだ。それにしても2時から正午までという営業時間は、普通のお店とまるで逆ではないか。
「(築地市場の)お客さんは飲食店のひとが多いから。あちらが営業している時間、こっちが店を閉めているんだよ」

 なるほど、それは場内とおなじシステムだ。

「もともとこの場外の商店街は、場内の市場に付随してできたんだ。鮮魚の仕入れとあわせて、飲食店の買い出しが一度で済むようにとね」

「築地のお客さんはクルマで買い出しに来るから、深夜でも早朝でも構わないんだね。昔は大八車を牽いて来るお客さんもいた。あと“パタパタ”って、分かるかな? そう、原付(原動機付き)自転車。あれで来るひとも多かったね」



漬物卸問屋「つきじ広洋」社長、大澤達之助さん。築地で商売を始めて半世紀、底抜けに明るい笑顔が印象的。



 大澤さんは昭和11年生まれ。昭和32年に築地で働きはじめたそうだから、もう半世紀もこの街の空気を吸っている。最初は別の卸問屋での勤務で、この十年ほど前に独立して自分のお店を開いたのだそうだ。その店舗も路地裏からはじめ、通りに面した今の場所を借りるまでに二度ほど移転しているらしい。
「私が仕事をはじめたころの築地は、それはもう人で溢れかえっていたよ。だから路地裏にも活気があったけど、今は通りに面したお店の方がいいよね」

「昔は漬物の包装も今みたいなビニール袋は無くてね。経木(きょうぎ:木材を薄く削いだもの)でくるんで渡していたんだよ。今から考えるととんでもない話だけど、それでも売れに売れた。食材が乏しい時代だったんだね

 そう言って昔を懐かしがる大澤さんだが、もちろん「築地のこれから」についても思うところがあるという。
「さいきんは観光バスでたくさんの人が来るようになった。中国とか台湾とか、ハワイの二世とか。そういう人たちにも“築地に来て良かった”と感じてもらえること。どうすればいいのか、皆で知恵を絞りあっているよ」



午前6時の場外。場内と違い、こちらの人通りはまだ少ない。広洋・大澤社長によれば「朝の9時から10時頃がいちばん混み合う時間帯」だそうだ。



 観光客といえば、ちょっとしたトラブルもあるらしい。これは「築地食のまちづくり協議会」の鹿川賢吾さんから伺った話だが、お店の人に無断で写真を撮ったり、勝手に商品に触れたりする人が多いのだそうだ。それは観光客に限らず、僕らのような写真好きにも耳の痛い話である。
「やはり“ひと声かけてから”が礼儀だと思うんですよ」

 そう、自然な街頭スナップを狙う前に、相手に声をかけて撮るように心がけよう。この街にはちゃんとそれに応えてくれるひとが大勢いるのだから。



カウンター越しに差し出される手はいつも清潔で美しい。玉子焼の名店「つきぢ松露」にて。



 次に訪れたのが玉子焼の有名店「つきぢ松露」。築地と玉子焼のつながりは深く、場外で営業する専門店も7店ほどになる。なかでも大正13年に創業した松露は最古参の老舗といえる。
「玉子焼の専門店が多い理由ですか? それはやはり場内に買い出しに来る寿司屋さんのニーズに応えて、ということでしょう。こちらの松露も私で三代目になりますが、初代は寿司屋から転向したんですよ」

 現当主・齋藤元志郎さんによれば、松露が玉子焼の専門店となったのは戦後のこと。終戦直後の統制経済下で寿司ネタが思うように手に入らなくなったのが、転向の理由らしい。
「それで二代目にあたる私の父がいろいろ工夫して、松露の味を確立し、料亭さんなどにも納めるようになりました。創業当時からのお付き合いが続いているお客さまも、まだ何軒か残っていますよ」

 物静かな「築地玉子焼三代目」、そのお話はまだまだ続く。



築地のブランド化にともない、最近は遠方より出店する飲食店の看板が目に付くようになった。



取材協力:築地食のまちづくり協議会/本願寺築地別院(築地本願寺)






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マカロニアンモナイト特集「築地場外・写真散策」
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