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webマガジン「マカロニアンモナイト」特集
マカロニアンモナイト
築地場外・写真散策
〜フォトジェニックな市場を歩く〜


写真・文/中山慶太

【目次】1234【5】 2008年5月掲載
5.築地は本願寺からはじまった


観る者を立ちすくませる圧倒的な存在感。何度観ても新鮮な驚きと発見のある意匠。この本堂が落成したとき、昭和9年のひとびとはどう感じたのだろう。



 築地に親しんだ人は「場内」「場外」という言葉をよく使う。前者は東京都が管理する中央卸売市場を、後者はそれに隣接する(この特集で紹介してきた)私設市場の商店街を指してそう呼ばれることが多い。でも地元の方に伺うと、「場外」とは商店街だけでなくもっと広いエリア、つまり中央卸売市場を取り巻く周辺一帯のことを指すのだそうだ。

 その場外の一画に、市場や商店街に負けない吸引力を発する場所がある。地下鉄の築地駅から地上に出ると真っ先に目に飛び込んでくる石造りの不思議な建築。それが「築地本願寺」である。



築地本願寺・本堂で定期的に開催される法要は約40分ほど続く。声明(しょうみょう)が鳴り響く荘厳な宗教行事だが説法などは一切無く、一種のコンサートとしても愉しむことができる。



 築地本願寺はその正式名称を「本願寺築地別院」という。別院と称するのは本院があるからで、京都の西本願寺(浄土真宗本願寺派の本山)がそれにあたる。今風にいえば京都本社と東京支社のような関係性だけれども、実はこのお寺はいろんな意味で築地と深くかかわっている。

 本願寺が東京に別院を構えたのは、元和3年(1617年)のこと。それは浅草近くの横山町にあったのだが、ほどなく江戸を襲った振袖火事で焼失、代替の土地として与えられたのが現在の場所になる。土地といってもそれは地面ではなく、八丁堀沖の海面だった。江戸幕府は「埋め立てて使うこと」を指示したわけで、かなり無茶な話である。

 この無茶に対して本願寺は門徒を結集、懸命の再建事業を行うことになる。防波堤を築きながらの難工事ではあったが、火事の翌年にあたる明暦4年(万治元年、1658年)には三分の一の埋め立てを完了して仮御堂を建立したというから凄い(なお最初に紹介した波除稲荷神社には、この工事にあたって荒れる海面を鎮めたご神体が祀られている)

 新たに生まれた土地は「築地」と呼ばれるようになった。信徒が築いた地面、これが築地の地名の由来だそうだ。



院内は昭和初期の西洋建築様式を今に伝える貴重な空間。こちらは門主(住職)の服務室で、偶に映画やTVのロケに貸し出されることもあるそうだ。



 その再建なった本願寺も、関東大震災で消失。ふたたび建立されたのは昭和9年(1934年)で、これは築地に卸売市場ができる前の年にあたる。市場に隣接する波除稲荷神社が創建されたのも、今の場所に本願寺が建立された翌年だから、築地市場と築地本願寺は不思議な縁で結ばれているのかもしれない。

 現在の築地本願寺は、昭和9年に再々建された建物そのもので、日本の仏教建築としては他に類を見ない独創的な意匠で知られている。天竺様式と呼ばれるそのスタイルは、古代インドの建築を模したものらしい。今から70年以上も前に、由緒ある名刹がよくこのデザインを採用したものだ。これは考えたひとよりもハンコを捺したひとが偉い。そう思って取材時に質問したら、案内の福井学誠(ふくいまなぶ)さんが、分かりやすい答えを授けてくださった。
「当時の門主で、大谷光瑞(おおたにこうずい)という方がいらっしゃいました。(現在の築地本願寺の)建築はその方の裁可によるものですが、大谷師は神戸に二楽荘という別邸をお持ちで、そちらの設計もおなじ建築家の作だそうです」

 その設計者は伊藤忠太。東京帝国大学(現・東京大学)の教授で、社寺仏閣をはじめ、日本各地のさまざまな建築に大きな足跡を残している。ただし築地本願寺の建築は、設計者よりも発注者のカラーが色濃く反映されたようにも思える。大谷光瑞は1902年から14年まで、3度にわたってインドに赴き、遺跡の発掘調査などを行った人だからだ。



院内では仏教にまつわるさまざまな動物たちの偶像を観ることができる。これはインドで聖なる動物とされる水牛の像。



 築地本願寺がユニークなのは建物だけではない。広い境内の一画には「カフェ・ド・シンラン」というレストランがあったり、本堂にはパイプオルガンが設置され、その演奏会も定期的に行われていたりする。また昨年(2007年)暮れには「東京ボーズコレクション」(宗派を超えた僧侶が結集する盛大な法要)を企画、見事に成功させたことも話題になった。

 先の福井さんによれば、こうした取り組みは「宗教の吸引力が弱くなっている時代だから」必要なのだそうだ。仏教は長い歴史を持つがゆえに、その伝統の保守的な部分が時代とのズレを引き起こす。そこでそのズレを是正するためにさまざまな改革が必要となる。たぶんそういうことだと思うけれど、これは築地の市場や商店街が抱える悩みともちょっと似た部分がある。

 とはいえ、築地本願寺は東京の台所の間近にあって、「食欲」という人間の煩悩を見つめ続けてきた。それはこの先もずっと変わらないのではないかと思う。僧侶が築いた土地に、市場や商店街がつくられ発展してきたのは、ある意味でとても自然なことのような気がするのだ。

 そういう勝手な想像は別として、築地本願寺では築地エリア全体を巻き込んだイベントを企画している。その一環として、今年2008年には築地誕生(埋め立て)350年を記念した「築きな祭」が開催される。イベントのタイトルには築地の素晴らしさや命の価値について再発見して欲しい、という願いが込められているそうだ。境内でも「食」をテーマとするさまざまなパフォーマンスが繰り広げられる予定なので、ぜひ脚をはこんでみて欲しい。きっと築地の新しい魅力を発見できるだろう。


●築地本願寺350フェスタ「築きな祭!」
 2008年5月24日(土)〜25日(日) 於:築地本願寺

 →築きな祭!(公式ブログ)



今回の取材で築地本願寺の院内を案内してくださった福井さん。放送局のムービーカメラマンという前歴をお持ちだそうだ。



取材協力:築地食のまちづくり協議会/本願寺築地別院(築地本願寺)


関連サイトへのリンク
映画『築地魚河岸三代目』公式サイト
「築地食のまちづくり協議会」公式サイト「築地魚河岸」
波除稲荷神社
広 洋
玉子焼専門店 つきぢ松露(しょうろ)
近江屋牛肉店
かちどき橋の資料館
築地本願寺 (浄土真宗本願寺派本願寺築地別院)


Fotonoma×映画『築地魚河岸三代目』タイアップ企画フォトコンテスト実施。(応募期間:2008年5月15日〜6月25日) 築地ならではの賞品をご用意。出演者が審査します!





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