* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


写真
---> 拡大表示










118 三本立てのトラウマ

いつ頃からか、プロ野球からダブルヘッダーがなくなり、映画館もロードショーだけになってしまったが、昔は映画といえば二本立てが普通で、中には三本立てのところもあった。三本立てともなると、途中で必ず喉が渇くし、腹も空く。だが、なぜか僕には、映画館の中で腹を満たしたという記憶がほとんどない。三角形をしたセロファンの袋に入ったピーナッツや酢昆布やカップアイスにオレンジジュースなどを食べたり飲んだりしたような気がしないでもないが、他の客が飲み食いしているのを、羨ましく眺めていただけのような気もする。どうも記憶が曖昧である。

 要するに、少年だった頃の僕は映画館の中で、しょっちゅう腹を空かしていたのである。その空腹の実感だけが、記憶として残っているのであろう。

 その空腹だった少年の、目前いっぱいに広がったスクリーンでは、夜空の下でカウボーイが焚き火をしながら、使い込んだ銅のカップで、ほかほかのコーヒーを飲んでいる。いや、当時の僕は、カウボーイの飲んでいるものが、コーヒーであるかどうかさえ知らなかったに違いない。豆をひいたコーヒーなど、一般家庭にはまだ普及していなかった。だが、そのよく知らない暖かそうな飲み物は、僕の唾液腺を刺激してやまないのである。
 映画の中のカウボーイは、もちろんコーヒーだけでなく、何か煮物のようなものもよく食べていた。日本人の感覚からすると、決して上等とは思えない料理なのだが、それらさえもが、僕の胃袋を激しく刺激した。三本立ては、ある意味で、修行の場でもあった。

 そういったトラウマがあるのか、TVでビールを飲むシーンがあると、僕は無性にビールを飲みたくなり、カレーが出てくると、ほとんどパブロフの犬のように、矢も楯もたまらずカレーを作り始めるのである。


2002年01月16日掲載

<--Back     Next-->



Webmaster :
ammo@tokyo.fujifilm.co.jp
Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部