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* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number 




140 表情のない音楽(3)

 僕は、ある時期、MIDI音楽を作ることに、首までずっぽりハマっていたことがある。そもそもパソコンを始めた動機の半分が、MIDI音楽をやりたくてというくらいだから、そのハマり様は仕事に支障をきたすほどだった。

 そのMIDI音楽の世界に、「ベタ入力」という言い方がある。
 楽譜には、実に色々な情報が封じ込められているものだが、当時、僕がMIDI音楽のデータを作る場合には、まず音符の音程と長さだけをデータ化することが多かった。
 たとえば、ハ長調の一点ドの四分音符だと、

NOTEK#STGTVEL
C46048048064

 といった文字列になる。
 NOTEは音符の名前、K#はその音符に割り当てられた番地、STはStep Timeの略記号で、音符の絶対的な寸法である。
 こういうものを、鍵盤を通じて、音符の数だけ入力していくわけである。
 この段階のものを「ベタ入力」と呼ぶのだが、当然そのデータは、GTもVELもデフォルトで、テンポの微妙な変化やヴィブラートといった情報もないため、再生すると、およそ音楽以前の、味も素っ気もない平板な演奏となってしまう。

 音楽に表情を加えるには、GTやVELなどを細かくいじる必要がある。
 GTというのはGate Timeの略で、その音符をどれくらいの長さ演奏するかを表す数値である。たとえばテヌートだと八分くらいの400、スタッカートだと、5とか、自分なりの“解釈”に応じて、そういう数値にしていくわけだ。VELというのはVelocityの略。音符間の相対的な発音量をこの数値で決定する。フォルテシモだと思えば、最大の128、ピアノだと思えば、25といった具合に。
 そんなようなやり方で、平板だった「ベタ入力」のデータを、音楽らしい音楽に作り込んでいくわけだが、完成までには、相応の時間と根気と、肩の凝る細かな作業を必要とする。まさに仕事に支障をきたすくらい、人的コストが掛かるのである。

 で、実は、某焼肉チェーン店などに流れている音楽こそ、その入力コストを削りに削った「ベタ入力」そのものなんじゃなかろうかと僕は推理している。だとすれば、今後も下手っぴから脱するのは無理な相談かもしれない。


2002年06月26日掲載

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