* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


写真
---> 拡大表示










146 街遊びは消費行為

 30年近く前、東中野という地に住んだことがある。
 新宿駅まで二駅という、僕がこれまで住んだ場所としては、もっとも都心に近く、街遊びをするにはもってこいのロケーションだった。友人知人にも、ちょっと誇らしげに引っ越しの通知をしたものである。

 だが、日が経つにつれ、僕はなんとなく所在なさを感じるようになった。意気揚々引っ越したはいいが、日々やることが見つからないのである。
 1Kの鉄筋アパートで、狭い台所と畳の部屋が一つあるだけ。もちろん、耕す畑もなければ、大工道具など無用の長物でしかない。だったら、仕事に専念すれば良さそうなものであるが、その仕事がない。僕は、その頃が過去一番売れないマンガ家だったのである。しかし、売れてなくとも、マンガを描くことには自信があったし、それで何とか身を立てたかったので、下手なアルバイトに手を出す気にもなれない。だから、街遊びをする金もなく、その頃は、既に飽きてしまっていたパチンコを、せいぜい2〜300円程度やりに行く、といった具合だった。

 そもそも僕自身、街遊びにあまり興味がない人間であることに気がついたのも、この東中野での短い生活によってである。街遊びは、僕にとっては消費行為に他ならず、万事受け身でさほど面白みを感じない。たまにはいいが、毎日それでは煮詰まってしまう。僕は作ることに心躍らせる人間である。街へ出るなら、東急ハンズ(*)へ立ち寄りたいと思う人間である。

 わずか10ヶ月で、そのアパートを引き払った。
 高い家賃の支払いが苦しくなったのが最大の理由だが、今思い返せば、そうしたことも大きかったように思う。

(*) 東急ハンズ−−「作る」ための道具や素材のデパート


2002年08月14日掲載

<--Back     Next-->



Webmaster :
ammo@tokyo.fujifilm.co.jp
Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部