* 週刊フォトエッセイ*

週休六日のススメ

  文・写真/福山庸治 --->Back Number


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152 仕事前の“儀式”

 どんなに好きで始めた仕事であれ、長く続けていると、体が独房(=仕事モード)に入るのを拒絶してしまう症状がしばしば現れるようになる。そうなると、僕には、そのための“儀式”が必要になってくる。といっても、原稿台を塩で清めるとか、エルサレムの方角に向かってお祈りをするとか、そういうことをするわけではない。

 仕事の前に、マンガを描くよりは格段に簡単なことをやって達成し、なにがしかの自信を身に纏ったところで仕事に入ろうという、いわばイメージトレーニングに近いものかもしれない。

 その簡単なことは、その時代時代で様々に変わる。
 たとえば、大昔テトリスというゲームが流行った頃など、全面クリアし、花火とカチューシャの踊りを見たら仕事を始めることにしたし、あるいは、Windowsのゲームでもお馴染みのソリティアを上がったら仕事部屋に行くぞと心に決めて、トランプを切り始めたりしたものである。

 ところが、儀式には天の邪鬼が棲んでいる。
 得てしてカチューシャがあっけなく最初のトライで踊り始めたり、ソリティアが何度やっても上がらなかったりするものだ。一発目で終わっては物足りないし、一度も上がらないと気持ちの切り替えが出来ない。それでは、儀式が完了しないじゃないかということで、もう一度いま一度とトライするうちに、単純作業の快感と倦怠の虜となり、猿がらっきょうの皮を剥き続ける状態に陥ってしまう。そして、すっかり夜が明けてしまうことになる。

 かくして、セルフコントロールに失敗し、逆に自信を失った僕は、締切という姿無き看守に引っ張られ、否応なく独房に入ることになる。そして、ピクニック日和の日差しを鉄格子越しに浴びながら、マンガを描き始めるのである。
 しかし、描き始めたら、それはそれで面白い。
 ピクニック日和が何なんだ、マンガを描いてるほうが楽しいぞ。
 なんだ、儀式などせずに、最初から仕事をすれば良かった。

 と、この時は真剣にそう思っている。


2002年09月25日掲載

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